財産分与に時効はある?請求できる期限とポイント

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  

財産分与には厳密な意味での「時効」はありませんが、請求できる「期限」は離婚が成立した時から2年です。

財産分与は離婚前に取り決められることが多いですが、取り決めをせずに離婚を成立させることもあります。

離婚後であっても財産分与を請求することは可能ですが、離婚後2年が経過すると請求できなくなってしまうので注意が必要です。

ここでは、財産分与の請求期限について詳しく解説するとともに、トラブル防止のためのポイントもご紹介していきます。

財産分与とは?

財産分与とは、離婚に伴い、結婚生活の中で夫婦が協力して築いた財産を分けて清算することをいいます。

どちらの収入で取得したかや、どちらの名義になっているかにかかわらず、結婚生活で協力して取得した財産(これを「共有財産」といいます。)を基本的に半分ずつに分け合います。

 

 

時効とは?

時効と除斥期間との違い

時効とは、ある事実状態が一定期間続いたことをもって、その状態についての権利を取得又は喪失するという制度です。

具体例

  • 10万円のお金を請求できる権利を持っていた
  • その権利について10年の時効が定められている

この場合、何もしないまま10年が経過すると時効が完成し、10万円のお金を請求できる権利は時効によって消滅します。

そうすると、法律上10万円を請求することができなくなってしまいます。

なお、時効には「取得時効」と「消滅時効」というものがありますが、上の例のように一定期間の経過により権利を喪失するものを「消滅時効」といいます。

消滅時効と似たような制度に除斥期間(じょせききかん)というものがあります。

除斥期間とは、権利を行使しなければならないとされる期間のことであり、この期間を過ぎると権利が消滅し請求できなくなってしまう点は消滅時効と同じです。

しかし、消滅時効と除斥期間には主に次のような違いがあります。

時効(消滅時効) 除斥期間
①猶予・更新の制度 あり なし
②援用 必要 不要
③起算点 原則、①債権者が権利を行使することができることを知った時、又は②権利を行使することができる時 原則、権利の発生時点

 

①除斥期間には猶予・更新の制度がない

消滅時効の場合は、時効が進行している最中に一定の事項(調停や裁判など)があると、時効の完成が猶予されたり、時効の進行が更新されたりする制度があります。

完成猶予とは、一定期間が経過するまでは時効が完成しないとすることです。

更新とは、それまでの時効の進行をなかったことにして、新たに進行が始まることです。

時効には完成猶予・更新の制度が設けられているため、時効が完成する時点を延長することができます。

他方で、除斥期間にはこのような制度はありません。

例えば、除斥期間が2年と定められていれば、2年が経てば権利は消滅し、期間を2年以上に延長する手段はありません。

【根拠条文】

民法(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)

第百四十七条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

引用元:民法|電子政府の窓口

※その他時効の完成猶予又は更新の規定として148条~152条、159条~161条があります。

 

②除斥期間の場合は相手(請求される側)の意思にかかわらず権利が消滅する

消滅時効の場合は、時効の期間が経過しても当然に権利が消滅するのではなく、相手が時効を「援用」した場合にはじめて権利の消滅が確定します。

「援用」(えんよう)とは、「時効が完成している」と主張することです。

時効の期間が経過していても、相手が「時効が完成している」と主張しなければ、権利が消滅することはありません。

時効による利益(請求を免れるという利益)を享受するかどうか、請求される側の良心に委ねるべきと考えられているからです。

そのため、時効が完成した後であっても、相手が時効を援用しない場合は、裁判で請求することもできます。

一方、除斥期間は、相手が除斥期間が経過していると主張しなくても権利は消滅します。

そのため、除斥期間が経過すると、相手の意思がどうであれ、裁判で請求することはできなくなります。

除斥期間は、法律関係を画一的に安定させることを目的とした制度であるところ、各自の良心に委ねると法律関係が不安定になるため、援用は不要とされています。

 

③期間がスタートする時点(起算点)が異なる

消滅時効と除斥期間では、期間のカウントダウンが始まる時点が異なります。

消滅時効の場合、①債権者が権利を行使することができることを知った時、又は②権利を行使することができる時からカウントダウンが始まります。

具体例 相手が自分に対し、「10万円を来月の末日に支払う」という契約がされた場合

  • 10万円を請求できる権利が発生した時点:契約が成立した時点
  • 権利を行使することができる時(「権利を行使することができることを知った時」とも一致する):来月の末日

来月の末日から消滅時効の期間のカウントダウンが始まる


一方、除斥期間の場合は、原則として権利の発生時点からカウントが始まります。

→財産分与を請求できるのは正式に離婚してから2年

 

財産分与の期限に関する法律の根拠

財産分与は、離婚の時から2年を経過したときは請求できないとされています(民法768条2項但書)。

つまり、財産分与は離婚が成立した時から2年が経過する前に請求しなければ、請求できなくなってしまうということです。

【根拠条文】

民法(財産分与)

第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

引用元:民法|電子政府の窓口

この2年の期限は、消滅時効ではなく除斥期間とされています。

離婚後の財産関係はできるかぎり速やかに確定するべきと考えられているためです。

そのため、財産分与の請求期限は2年以上に延長することができず、2年が経過すれば相手の意思にかかわらず権利が消滅してしまいます。

除斥期間のカウントダウンが始まるのは、「離婚の時」となります。

「離婚の時」とは、正式に離婚が成立した時であり、離婚の方法により異なります。

離婚の方法 離婚成立時
協議離婚 当事者同士で話し合い離婚届を出して離婚した 離婚届が役所に受理された日
調停離婚 裁判所で話し合って離婚した 調停が成立した日
裁判離婚 離婚裁判で離婚の判決をもらった 判決が確定した日
裁判上の和解離婚 離婚裁判をしたが和解(話し合い)によって離婚した 和解が成立した日

 

財産分与の請求方法

財産分与の取り決め方には次のようなものがあります。

協議 当事者間の話し合いによって取り決める。
財産分与の調停 裁判所で話し合い、合意によって取り決める。話し合いがまとまらない場合は、自動的に審判に移行する。
財産分与の審判 裁判官が当事者双方の言い分や提出資料を検討し、一定の結論を出して決める。

まずは相手に直接請求し、話し合いによって取り決めることを試みるのが一般的です。

これにより離婚後2年が経過する前に取り決めが成立し、それについて法的に有効な協議書等も作成できれば問題はありません。

一方、話し合いによって取り決めることが出来ない場合は、調停を申し立て、裁判所で決める必要があります。

その場合、財産分与の調停(や審判)は、離婚成立時から2年以内に申し立てなければならないことに注意が必要です。

離婚後2年以内に相手に手紙や電話で請求し、話し合いを開始していたとしても、話し合いをしている間に2年が経過すると調停を申し立てることができなくなってしまいます。

そのため、当事者間の話し合いがまとまらない場合は、早めに(遅くとも2年を経過する前に)裁判所の手続き(調停や審判)を申し立てる必要があります。

調停や審判を申し立てていれば、その手続きをしている間に離婚が成立して2年が経過したとしても、そのことを理由に財産分与請求権が消滅することはありません。

 

2年経過後でも財産分与が認められるケースはある?

離婚後2年を経過したときは、どのような場合でも財産分与請求は認められないのでしょうか。

ここでは、参考として、離婚後2年以内に財産分与の合意をしたけれども、2年経過した後にその合意が無効とされた場合の除斥期間と財産分与請求との関係について判示した裁判例をご紹介します。

判例 東京高裁平成3年3月14日判決(判時1387・62)

財産分与契約の錯誤無効が認められた場合には、財産分与請求権は民法768条2項ただし書の趣旨と、本件事案の下において、財産分与請求をあらかじめ行わせることは期待できないことを考えると、時効の停止に関する同法161条の規定を類推適用する余地があり、本件財産分与契約の錯誤無効が確定した後に行う協議に代わる処分の請求が除斥期間によって妨げられるものとは解されないと判示しました。
※旧民法下の裁判例です。

財産分与の合意が無効(はじめから無かったことになる)の場合、財産分与請求を期限内に行使することは期待できないので、消滅時効に関する規定を類推適用(似たような事案に適用すること)する余地があるとして、除斥期間経過後の財産分与の請求は認められると判断した事案です。

この裁判例を踏まえると、除斥期間経過後に財産分与の合意が無効の場合や、隠匿財産が発覚するなど、財産分与請求を期限内にすることが無理といえるような状況の場合、民法第161条(天災等による時効の完成猶予)を類推適用することによって財産分与請求ができる余地があるとも考えられます。

ただし、実際に除斥期間経過後の財産分与請求が認められるのは、かなり限られた事案によるものと考えられます。

そのため、基本的には2年以内に調停や審判等の手続きにより請求しなければ財産分与請求は認められなくなると考えておいた方がよいでしょう。

【参考条文】

民法(天災等による時効の完成猶予)

第百六十一条 時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため第百四十七条第一項各号又は第百四十八条第一項各号に掲げる事由に係る手続を行うことができないときは、その障害が消滅した時から三箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

引用元:民法|電子政府の窓口

 

離婚後2年以内に確定した財産分与の請求権利の時効は10年

離婚後2年以内に財産分与の取り決めができても、相手が取り決めたとおりに財産を渡してくれない場合、取り決めたとおりに渡すよう請求できる期間も限られているので注意が必要です。

取り決めたとおりに財産を渡すように請求できる権利は、財産分与について協議で取り決めをした場合は通常は5年、裁判所で取り決めをした場合(調停、審判、判決、裁判上の和解等で決めた場合)は10年の消滅時効にかかります。

協議で取り決めた場合、取り決め内容について「公正証書」という公証役場で作成する公文書を作成しておくことも多いですが、公正証書を作成している場合でも消滅時効の期間は5年とされていますので注意が必要です。

取り決め方法 時効期間
合意(公正証書を作成している場合も含む) 5年
調停、審判、判決、裁判上の和解 10年

 

【根拠条文】

民法(債権等の消滅時効)

第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

(判決で確定した権利の消滅時効)
第百六十九条 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。

引用元:民法|電子政府の窓口

財産分与に関して除斥期間と消滅時効が出てきて分かりにくいところですので、具体例を見ていきましょう。

具体例

・2023年1月1日:離婚成立(調停離婚)
・2023年2月1日:元妻が元夫に対し、調停を申し立てて財産分与の請求をした
・2023年3月1日:財産分与の調停で、「元夫が元妻に対し、財産分与として2023年4月1日限り100万円支払う。」との合意が成立した。


この場合、まず、財産分与請求権は離婚成立時の2023年1月1日から除斥期間2年のカウントダウンが始まります。

元妻は離婚成立時の1か月後に調停を申し立てて財産分与を請求したので、2年以内に請求することについてはクリアすることができました。

もっとも、調停を申し立てて請求した時点での財産分与請求権は、まだ抽象的な権利にすぎず、「何を、いつ、どのように分与するか」といった具体的な内容のあるものではありません。

そのため、元妻が元夫に対して具体的にどのようなことを求める権利があるのか、まだ確定していません。

調停で財産分与の中身について話し合い、合意が成立して初めて具体的な権利が確定し、具体的な請求ができるようになります。

今回は、2023年3月1日に「元夫が元妻に対し、財産分与として2023年4月1日限り100万円支払う。」との合意が成立した時点で初めて、元妻は元夫に対して100万円の支払いを求める権利を持つことになります。

この100万円の支払いを求める権利は、除斥期間2年の財産分与請求権とは別物の、具体的にお金を求める権利として消滅時効にかかります。

今回は調停で取り決めているので、10年の消滅時効にかかります。

すなわち、支払期限である2023年4月1日から10年が経過すると、時効によって消滅します。

そのため、元夫が2023年4月1日になっても100万円を支払わない場合、元妻が何もしないまま10年が経過すると、元夫が時効を援用すれば、元妻は元夫に100万円を請求することができなくなってしまいます。

したがって、元妻は10年が経たないうちに、時効の完成猶予・更新の手段を講じる必要があるといえます。

 

 

財産分与をもらう側のポイント

離婚する前に財産分与を確定する

財産分与は離婚後に請求できるものですが、離婚前に離婚条件として請求することもできます。

この場合、財産分与の取り決めができることを離婚の条件としているので、財産分与が確定しない限り離婚は成立しないことになります。

離婚が成立しない限りは、たとえ別居していたり、夫婦関係が実質的に失われていたとしても、財産分与の期限のカウントダウンは始まらないため、期限切れで財産分与の請求ができなくなる心配はありません。

また、離婚前であれば、離婚自体やその他の離婚条件と併せて交渉することで、柔軟な解決ができる場合もあります。

したがって、できるだけ離婚する前に財産分与について取り決め、確定させるようにしましょう。

協議離婚(当事者同士が話し合い、離婚届を出すことにより成立する離婚)の場合は、法的に有効な離婚協議書を作成しておくことも大切です。

口約束や不適切な文書による合意だけだと証拠にならず、合意の存在自体も否定される可能性もあります。

合意の存在自体を否定された場合、最初から取り決め直す必要がありますが、その時点で離婚の成立時から2年が経過していると、改めて財産分与を請求することができなくなってしまうため、注意が必要です。

 

離婚後の場合はできるだけ早く請求する

離婚前に財産分与を確定するのが望ましいですが、再婚したい場合など、夫婦関係の解消を最優先したいケースでは、財産分与を決めずに離婚を先行させることもあります。

このような場合は、離婚後、できる限り速やかに財産分与の請求をするようにしましょう。

離婚後は、夫婦関係がなくなり疎遠になるため、離婚前よりも本人同士で話し合いをすることが難しくなる傾向にあります。

そのため、相手が話し合いに応じなかったり、話し合いがまとまらなかったりした場合は、そうしている間に離婚成立時から2年が経過してしまわないよう、速やかに財産分与の調停を申し立てるようにしましょう。

離婚後速やかに弁護士に依頼して請求を出してもらうことも検討するとよいでしょう。

当事者本人同士での話し合いができない場合であっても、弁護士が代理人として相手と交渉することにより、速やかに財産分与を確定させることができる可能性があります。

勿論、必要な場合は速やかに調停申立ての手続きも対応してくれます。

 

取り決めどおりに財産を渡してくれない場合は早めに対処する

先ほど説明したように、離婚後2年以内に財産分与の取り決めができても、相手が取り決めたとおりに財産を渡してくれない場合、取り決めたとおりに渡すよう請求できる期限も限られているので注意が必要です。

この期限は消滅時効ですので、猶予・更新により期限を延長することが可能です。

時効の完成猶予・更新をする手段はいくつかありますが、一般的には財産分与の取り決め方法に応じて次のような手段を講じることになります。

取り決め方法 手段 内容
・裁判所の手続き(調停・審判・訴訟(判決・訴訟上の和解))で取り決めた場合
・強制執行認諾文言のある公正証書で取り決めた場合(※)
強制執行 相手の財産を差し押さえて強制的に支払わせる手続き
・協議で取り決めた場合 催告・裁判上の請求 内容証明郵便等によって支払いを促し(催告)、催告から6か月以内に裁判を起こして支払請求する

※強制執行認諾文言とは、支払義務を負う側が公正証書に書かれているとおりに支払いをしない場合は強制執行を受けてもやむを得ないと言ったという内容の文言です。

(例:「甲は、第〇条の債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。」)

この文言がない場合は、いきなり強制執行をすることはできません。

もっとも、専門家でないと適時に適切な手段をとるのは困難ですので、相手が取り決めたとおりに財産を渡さない場合は、できる限り早めに専門の弁護士に相談されるようにしてください。

 

財産分与に詳しい弁護士へ相談する

期限内に財産分与を請求し、きちんと財産をもらうためには、財産分与に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。

離婚前の場合は、請求期限のカウントダウンは始まらないものの、きちんと協議書等を作成しておく必要があります。

法的に有効な協議書等を作成するのは、専門知識とノウハウがないと困難ですので、専門の弁護士に作成してもらうのがよいでしょう。

また、離婚後の場合は、速やかに請求・調停の申し立てをしなければなりませんが、専門の弁護士であれば速やかな対応が可能です。

さらに、財産分与の取り決めができた後も、そのとおりに財産が渡されない場合、弁護士に引き続き強制執行の手続きを依頼することも可能です。

そうすることで、もらえたはずの財産をもらえなくなってしまったという事態を防ぐことができます。

 

 

財産分与をする側のポイント

財産隠しをしない

財産分与をするときは、まず財産分与の対象となる財産を把握することから始めます。

そのため、財産分与の請求をされた際、自己名義の財産を開示するよう求められることになりますが、このとき財産隠しをしないことが大切です。

相手に内緒で貯めていたお金など、相手が知らない財産も開示するようにしましょう。

相手に気づかれないまま財産分与の請求期限が過ぎれば分与せずに済むとは限りません。

離婚後2年が経過した後に財産を隠匿していたことが発覚した場合、除斥期間により財産分与請求権は消滅しているため、その隠匿財産について改めて財産分与を請求されることは基本的にはないと考えられます。

ただし、
①隠匿財産(夫婦の共有財産)については相手も権利(共有持分権)を持っていたところ、この権利が不当に侵害されたこと
②相手の財産分与請求権の行使をする機会が不当に奪われたこと
などを理由に、相手から損害賠償を請求される可能性があります。

裁判例でも、2年の除斥期間経過後に隠匿財産が発覚し、相手が損害賠償を請求した事案で、相手の共有持分権を侵害したとして財産分与相当額の支払いを命じたものがあります。

このように、財産隠しは将来のトラブルにつながる恐れがあるので、注意する必要があります。

 

財産分与の対象・割合で納得できなければきちんと主張する

自己名義の財産を全て正直に開示しても、必ずしもその2分の1を相手に渡すことになるとは限りません。

財産分与の対象となるのは、結婚生活で協力して築いた共有財産のみです。

結婚生活とは無関係に取得した財産、例えば結婚前の預貯金や、親からの贈与・相続により取得した財産(このような財産を「特有財産」といいます。)は財産分与の対象にはなりません。

また、財産分与の割合は基本的には2分の1ですが、それは夫婦の財産形成に対する貢献度は特別の事情がない限り平等といえるからであり、2分の1とするとかえって不公平になる場合は割合の変更が認められます。

例えば、夫婦の一方が特別な資格や能力により高収入を得ており、それにより非常に多くの財産を形成している場合などです。

そのため、特有財産や、分与割合を変更するべき事情がある場合、それらをきちんと主張していくことにより、相手の請求額よりも分与する金額を少なくできる場合があります。

 

財産分与に詳しい弁護士へ相談する

財産分与をする側は、請求のタイムリミットに追われることはありませんが、適切に財産分与をすることや、将来のトラブルを防止することは重要です。

そのため、財産分与に詳しい弁護士へ相談し、慎重に財産分与を進めることをおすすめします。

財産分与に詳しい弁護士であれば、財産開示や、財産分与の対象・割合について吟味した上での適正額の提示などについて適切にアドバイスをしてくれます。

また、将来のトラブル防止も考慮した上で、適切な協議書等も作成してくれます。

 

 

財産分与に関するよくあるQ&A

離婚前に別居している場合はいつから2年をカウントする?

正式に離婚が成立した時からです。

財産分与の請求期限は除斥期間とされているため、一律に「離婚の時」からカウントされます。

「離婚の時」とは、法律上離婚が成立した時をいいます。

具体的には、離婚届が受理された日(協議離婚の場合)、調停成立日(調停離婚の場合)、判決確定日(裁判離婚の場合)、和解成立日(裁判上の和解離婚の場合)となります。

離婚前に別居し、実質的には離婚しているような状態であっても、正式に離婚が成立しない限りは財産分与の請求期限のカウントは始まりません。

 

隠し財産がある場合はどうなる?

隠し財産が発覚した時点で離婚時から2年が経過している場合は、改めて財産分与を求めることは基本的にはできませんが、状況によっては他の手段で救済される余地があります。

隠し財産がある場合でも、財産分与請求権は離婚時から2年が経過すると消滅してしまいます。

そのため、隠し財産が発覚した時点で離婚時から2年が経過していれば、改めて財産分与を請求することはできません。

しかし、それでは財産を隠した者勝ちということになり、妥当ではありません。

そこで、隠匿行為によって本来もらえるはずであった財産がもらえなくなったという損害を被ったことに着目して、相手に損害賠償を請求すること等が考えられます。

また、先にご紹介したように、特殊なケースではあるものの、天災等による時効の完成猶予の規定を類推適用して除斥期間経過後の財産分与請求の余地を認めた裁判例もあります。

このように、具体的な状況によりますが、離婚時から2年が経過したからといって救済の余地がなくなるわけではありません。

離婚成立時から2年経過した後に隠し財産が発覚した場合でも諦めず、まずは専門の弁護士に相談されることをおすすめします。

また、隠し財産は将来のトラブルの元になるので、財産開示はお互いに誠実に行うことが大切です。

 

権利者が死亡した場合の時効はどうなる?

抽象的な財産分与請求権は相続されないため、本人が財産分与を請求しないうちに死亡した場合、財産分与請求権自体消滅します。

財産分与について具体的に取り決めがされた後に本人が死亡した場合、具体的な請求権は相続され、その請求権の時効は相続人が確定した時から6か月を経過するまでの間、完成が猶予されます。

まず、2年の除斥期間が定められている財産分与請求権は、「何を、いつ、どのように分与するか」といった具体的な内容のない抽象的な権利にすぎないため、相続の対象にはならないと考えられています。

そのため、離婚後、権利者が財産分与請求をする前に死亡した場合は、財産分与請求権も消滅し、除斥期間や時効が問題になることはありません。

他方、離婚後、権利者が財産分与請求を行い、具体的な内容が取り決められた場合は、具体的な権利となります。

例えば、「元夫が元妻に財産分与として100万円を支払う」との内容が取り決められた場合、元妻が元夫に100万円の支払を請求する権利を持つこととなります。

このような具体的な権利は、相続の対象となります。

そのため、離婚後、財産分与について具体的な内容が取り決められた後に権利者が死亡した場合は、その具体的な権利は相続人に相続されます。

そして、この具体的な権利は消滅時効にかかりますが、相続があった場合は「相続財産」となるため、相続人が確定した時から6か月を経過するまでは時効の完成は猶予されます。

【根拠条文】

民法(相続財産に関する時効の完成猶予)

第百六十条 相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

引用元:民法|電子政府の窓口

なお、離婚後、財産分与請求を行った後、具体的な内容が取り決められる前に死亡した場合については、ある程度具体化した権利と捉えて相続の対象となると考えられているようです。

 

財産分与の時効に民法改正の影響は?

財産分与の請求期限については影響はありませんが、確定した権利についての消滅時効は改正により一部短くなりました。

2020年4月から施行されている改正民法では、時効に関する規定が改正されていますが、財産分与の請求期限(除斥期間2年)については改正の影響はありません。

一方、財産分与の取り決めをした後に、取り決めどおりに財産を渡すように請求する権利の請求期限(消滅時効)は、次のように改められました。

取り決め方法 時効期間
改正前 改正後
合意(公正証書を作成している場合も含む) 10年 5年
調停、審判、判決、裁判上の和解 10年 10年

ただし、改正前(施行日前)に取り決めがされていた場合は、合意による取り決めの場合でも時効期間は10年となります。

 

 

まとめ

以上、財産分与の請求期限について詳しく解説しましたが、いかがだったでしょうか。

財産分与の請求期限は、離婚が正式に成立してから2年です。

できる限り離婚前に取り決めておくこと、及び、協議で取り決めた場合は法的に有効な離婚協議書を作成しておくことが重要です。

財産分与を取り決めずに離婚した場合は、離婚成立時から2年以内に調停を申し立てる必要があります。

いずれの場合も、適時・適切な対応が必要になりますので、お困りの場合は専門の弁護士に相談されることをおすすめします。

当事務所では、離婚問題を専門に扱うチームがあり、財産分与の問題について強力にサポートしています。

LINE、Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。

財産分与の問題については、当事務所の離婚事件チームまで、お気軽にご相談ください。

この記事が、財産分与の問題にお悩みの方にとってお役に立てれば幸いです。

 

 

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