離婚裁判とは【離婚弁護士がポイントを解説】
離婚裁判(離婚訴訟)とは
離婚裁判とは、当事者間の紛争について、裁判所の判断を仰ぐことで解決する手続です。
この裁判所の判断のことを判決といいますが、これが確定すると当事者や関係者を拘束し、同一内容について争えなくなります。
このように、裁判は、争点について、裁判所が最終的には判決を出すという点で、話し合いによる解決しかできない調停とは異なります。
離婚裁判のポイントについては、下記を参考にしてください。
離婚裁判の流れ
離婚裁判の流れは次の図をご参照ください。
訴えを提起するには、訴状を作成して管轄を有する家庭裁判所に提出します。
訴状には、離婚を請求することのほか、親権者指定、面接交渉、財産分与、養育費等の審理を求めることを記載できます。
管轄は、原則として、原告または被告のどちらかの住所地を管轄する家庭裁判所となります。
訴えの提起を受けた家庭裁判所は、被告に対して訴状を送付(これを「送達」といいます。)します。
通常は、訴えの提起を受けた日から30日以内に裁判の期日(第1回口頭弁論)を指定します。
訴状の送達を受けた被告は、訴状に記載されている内容に対して、認否や反論を記載した書面(これを「答弁書」といいます。)を提出します。
第1回口頭弁論では、通常、訴状の陳述と答弁書の陳述が行われます。
そして、次回期日に行うことの確認や日時の調整が行われます。
多くの場合、次回期日では、被告の答弁書に対する原告の反論が行われます。
なお、被告が欠席した場合、通常の民事訴訟の場合と異なり、事件を終結させることはできません。
裁判では、原告と被告が相互に主張を行なっていきます。
④で述べたとおり、第1回口頭弁論の後、ほとんどの場合、次回(第2回)期日が指定され、被告の答弁書に対する原告の反論が行われます。
そして、原告の反論を受け、第3回期日において、被告が再反論を行なう等によって、争点が明確にして行きます。したがって、争点整理手続と呼ばれます。
証拠調べとは、争点について、立証するために、証拠資料を提出したり、証人尋問等を行う手続です。
証拠資料の提出は、通常争点整理手続中に行いますが、証人尋問等は、争点整理手続により、争点が明確となってから一括して行われます。
したがって、証人尋問等は裁判の終盤に行われるのが通常です。
証拠調べが終わると、口頭弁論を終結して、原告の請求に対する判断がなされ、判決が言い渡されます。
口頭弁論終了後、判決が出るまでは通常1から2か月程度は要します。
判決は、文書(判決正本)で当事者双方に送達されます。
判決内容に不服がある場合は、送達を受けた日から2週間以内に控訴を提起することができます。
離婚裁判の訴訟提起のポイント
必要となる書類
離婚裁判で必要となる書類は以下のとおりです。
- 訴状 2部 ※訴状の記載要領については後述します。
- 夫婦の戸籍謄本及びその写し
- 年金分割を求める場合は、「年金分割のための情報通知書」及びその写し。
(年金分割のための情報通知書を取得するために必要となる資料や窓口の情報についてはこちらをごらんください。) - 養育費を求める場合は、源泉徴収票等の収入の証拠資料のコピーを2部
離婚訴訟の訴状の注意点
訴状には、次の事項を記載します(民事訴訟規則53条1項)。
- 請求の趣旨
- 請求の原因
- 請求を理由づける事実
(具体的に記載し、かつ、立証を要する事由ごとに、当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載する。)
記載例 離婚裁判の訴状の記載例
請求の趣旨や請求の原因という言葉は、弁護士には日常用語ですが、素人の方にはわかりにくいと思われます。
請求の趣旨とは、離婚裁判において、相手(被告)に請求する内容をいいます。もっとも、なんでも請求できるわけではなく、裁判で請求できる内容は限られます。
例えば、「離婚を求める」は請求できますが、離婚裁判では「謝罪を求める」などは請求できません。
具体例を見た方がイメージがわくと思いますので、サンプルを示します。
第1 請求の趣旨
- 原告と被告とを離婚する。
- 原告と被告との間の長女松子(○年○月○日生)、長男竹男(○年○月○日生)及び二男梅男(○年○月○日生)の親権者を原告と定める。
- 被告は、原告に対し、判決確定の日から前記未成年者らが成人に達するまでの間、毎月末日限り、前記未成年者ひとりにつき1か月○万円の金員を支払え。
- 被告は原告に対し、財産分与として金○○万円を支払え。
- 被告は、原告に対し、金○○万円及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 原告と被告との間の別紙年金分割のための情報通知書記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定める。
- 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
上記は、妻(原告)が浮気・不倫をした夫(被告)に対して、離婚裁判を起こす場合の訴状に記載する請求の趣旨のサンプルです。
1項で離婚を求め、2項で親権、3項で養育費、4項で財産分与、5項で慰謝料、6項で年金分割を求めていますが、簡潔に、必要最小限のことを記載します。
なお、7項は訴訟費用の負担を被告とするものです。
訴訟費用と聞くと、「弁護士に支払う報酬」をイメージされる方が多いのですが、そうではありません。
訴訟費用とは、法律で定められたもので、印紙代等の手数料や切手代等をいいます。訴状には必ずついてくるおまけのようなものなので、あまり気にしない方がよいでしょう。
離婚請求(1項)の他の要求事項のうち、親権(2項)、養育費(3項)、財産分与(4項)、年金分割(6項)の要求事項を「附帯処分」といいます。
慰謝料(5項)は、損害賠償請求であって、本来、家庭裁判所が管轄ではなく地方裁判所が管轄となります。
したがって、附帯処分ではありませんが、離婚裁判の場合、「人事訴訟に係る請求と当該請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求」として、家裁に訴えを提起できます(人事訴訟法17条1項)。
仮執行宣言について
財産権上の請求に関する判決については、裁判所は、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てて、又は立てないで仮執行をすることができることを宣言することができます(民事訴訟法259条)。
例えば、慰謝料を請求した場合、勝訴しても相手から控訴されると確定しないため、確定するまで支払ってもらうことができません。
このとき、判決に仮執行宣言がつくと、相手から控訴されても、仮に執行が可能となる、すなわち、強制執行が可能となります。
そのため、訴状には請求の趣旨に「仮執行宣言を求める」と記載することも多くあります。
しかし、離婚裁判の場合、離婚慰謝料は、離婚が確定してはじめて慰謝料が発生すると考えられています。
したがって、離婚慰謝料を請求する場合、裁判所は仮執行宣言をつけません。
このような理由で上記サンプルには仮執行宣言を記載しておりません。
離婚裁判の請求の原因について
請求の原因とは、請求を特定するために必要な事実のことをいいます。
請求を理由づける事実については、具体的に記載し、かつ、立証を要する事由ごとに、当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければなりません。
附帯処分についても同様です(人訴規則19条)。
下表は、請求する内容(請求の趣旨)に応じた記載すべき内容について、チェック項目をまとめたものです。
※離婚原因とは、次の5つのどれかをいう。
- 被告の不貞行為(民法770条1項1号)
- 被告の悪意の遺棄(民法770条1項2号)
- 被告の生死が3年以上不明(民法770条1項3号)
- 被告が強度の精神病で回復の見込みがない(民法770条1項4号)
- その他婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号)
婚姻生活の経過を長々と記載するのではなく、上記を基礎づける具体的な事実を記載する。
実務上は、5.のその他婚姻を継続し難い重大な事由を記載することがほとんど。
1.から4.のどれかを主張する場合でも、認められない場合に備えて5.も記載した方がよい。
5.を主張しない場合、裁判官から主張しないか釈明される場合がある。
(被告を親権者として申し立てても構わない。)
ただし、被告の収入が不明な場合は記載しなくて良い。
収入の証明資料:源泉徴収票、所得証明書、確定申告書など
ただし、相手の財産については、離婚調停時に相手が財産開示に協力しなかったなどの理由で不明の場合は記載しなくて良い。
なお、当事務所では、離婚裁判の訴状の書き方について、記載例のダウンロードが可能です。
ダウンロードは無料ですので、こちらのページをご覧ください。
管轄と移送の問題
離婚裁判の土地管轄は、原告又は被告が普通裁判籍を有する地等を管轄する家庭裁判所の管轄に専属すると規定されています(人事訴訟法4条1項)。
この規定があることから、離婚調停が行われた家裁に離婚裁判を提起する代理人がいますが、自庁処理はあくまで例外的な措置であって、単に離婚調停が行われたことをもって、自庁処理が認められるわけではないので注意が必要です。
離婚裁判の裁判所に支払う手数料
離婚裁判を提起するためには、収入印紙と郵便切手が必要となります。
基本的な手数料は下表のとおりですが、印紙代等は請求する内容によって異なるため、正確な額は弁護士に確認されたほうがよいでしょう。
請求内容 | 手数料 | 備考 |
---|---|---|
原則:離婚のみを請求する場合 | 印紙代:1万3000円
郵便切手:5350円 |
非財産上の請求として訴額が160万円とされている(民訴費4条2項)
郵便切手は被告が1名増えるごとに1082円を2組ずつ増額 |
離婚裁判において慰謝料も請求する場合 | 印紙代:請求する慰謝料の額で決定 | 例:請求額が500万円の場合 印紙代は3万円
慰謝料の請求額が160万円以下の場合は1万3000円 |
附帯処分を申立てる場合 | 養育費、財産分与、年金分割を求める場合、訴えの手数料とは別に、1200円の納付が必要 | 子供が数人いる場合、子一人につき1200円 |
失敗しない離婚裁判の10のポイント
離婚裁判で失敗しないようにするためには、押さえておくべきポイントがあります。
大別すると、スピード解決のポイント、離婚条件で損をしないためのポイント、離婚裁判で負担を減らすためのポイント、離婚裁判を有利に進めるためのポイントです。
以下、項目ごとに解説いたします。
失敗しない離婚裁判の10のポイント
離婚条件で損をしないためのポイント
①効果的な主張・立証を行う
離婚裁判のような人事訴訟では、公益性の観点から真実発見が重視され、民事訴訟における自白の規定が適用されない等、弁論主義が制限されています(人事訴訟法19条1)。
また、裁判所は、当事者が主張しない事実をしん酌し、かつ、職権で証拠調べをすることができます(職権探知主義・人事訴訟法20条)。
もっとも、職権探知主義がとられているとはいえ、離婚裁判において、当事者は、要件事実(一定の法律効果が発生するために必要な具体的事実をいう)を意識し、主体的に主張・立証を行わなければなりません。
下表は、請求する内容に応じた、原告側と被告側のそれぞれの主張・立証のポイントをまとめたものです。
請求する側(原告)のポイント
民法770条1項の離婚原因について、具体的な事実を主張する。
「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)については、婚姻関係が破綻していることについて主観的要素と客観的要素を意識する。
離婚について詳しい解説はこちらからどうぞ。
請求される側(被告)のポイント
請求棄却の答弁をする際、婚姻の破綻そのものを争うのかを明確にする。
【破綻そのものは争わず、破綻の原因や破綻に至る経過を争う場合】
離婚そのものは争点とはならない。
ただし、この場合でも裁判所は証拠調べをすることなく離婚請求を認容するということはしていない。
【破綻の原因が原告にある場合】
慰謝料を請求する場合は反訴を検討する。
慰謝料を請求するほどの事案でなければ反訴はあまり意味がない。
請求する側(原告)のポイント
【親権者の指定が争点となっており、判断が容易ではない事案】
親権者の適格性を基礎づける具体的事実を適確に主張する。
【子供が15歳以上の場合】
裁判所は子供自身の陳述を聞く必要があるため(人訴法32条4項)、陳述書を提出する。
例:「子の陳述書」の提出(サンプルはこちらからどうぞ。)
【被告側が子供の意向調査を主張した場合】
反論例:訴訟段階であること、子はその意向を表明することで両親の板挟みとなり、心情を傷つける結果となるため子の福祉の観点から実施すべきではない等
親権の詳しい解説はこちらからどうぞ。
請求される側(被告)のポイント
親権を争う場合、漠然とした不安を訴えるだけではなく、相手の監護について、どのような問題があるのかを具体的に主張し、裏付けとなる証拠を提出する。
例:「子の監護に関する状況」の提出(サンプルはこちらからどうぞ。)
自己が監護する場合の監護養育の具体的な計画や監護補助者の協力状況について主張する。
親権の詳しい解説はこちらからどうぞ。
請求する側(原告)のポイント
収入の証明資料を提出する。
例:源泉徴収票、確定申告書など
【被告の収入資料がない場合】
被告に開示を求める。
【私学加算を求める場合】
子供の高額な学費等について加算を求める場合は、当該学校への入学等について、夫婦間でどのような協議がなされていたのか、また、家計費とのバランスがどうであるかなどについて主張立証する。
養育費の詳しい解説はこちらからどうぞ。
請求される側(被告)のポイント
収入の証明資料を提出する。
例:源泉徴収票、確定申告書など
時折、収入資料の開示を拒否する当事者や代理人を見るが、訴訟の長期化を招くだけであり、積極的に開示すべき。
【収入の減少が予想される場合】
具体的に主張立証する。
例:会社から家族手当の支給がなくなる場合、給与明細、賃金規定などを提出して額や支給要件を主張立証する。
養育費の詳しい解説はこちらからどうぞ。
請求する側(原告)のポイント
財産分与の対象となり得る財産として何があるかを明確にし、証拠資料を提出する。
- 例:預貯金の額と通帳の写し
- 不動産の時価と登記簿謄本と査定書
- 株式の時価と取引明細書等
対象財産の基準時は基本的には別居時とし、離婚時とする特段の事情がある場合はその具体的な事実を主張立証する。
財産分与の目録のサンプルはこちらからどうぞ。
被告側の財産の内容が不明な場合は開示を求める。
財産分与の詳しい解説はこちらからどうぞ。
請求される側(被告)のポイント
財産分与の対象となり得る財産として何があるかを明確にし、証拠資料を提出する。
- 例:預貯金の額と通帳の写し
- 不動産の時価と登記簿謄本と査定書
- 株式の時価と取引明細書等
時折、収入資料の開示を拒否する当事者や代理人を見るが、訴訟の長期化を招くだけであり、積極的に開示すべき。
【特有財産や固有財産の主張をする場合】
具体的な事実の主張と証拠資料を提出する。
- 例:婚姻時の預貯金の場合、その額と通帳等の写し
- 遺産相続の場合、その額と遺産分割協議書等
財産分与の詳しい解説はこちらからどうぞ。
②相手が資料を開示しない場合
STEP1 相手に資料の開示を求める
裁判所を通じて、求釈明を行うことで、通常の場合、開示してくれると思います。 裁判官も開示するように促すはずですので、これで開示しないケースは少ないと思われます。
STEP2 調査嘱託・文書送付嘱託等を検討
相手が開示しない場合、相手が勤める会社に対して、収入資料の送付を嘱託することができます(民事訴訟法第226条)。 もっとも、会社がプライバシーを理由に開示を拒否する可能性もあります。 また、個人事業主や会社員でも副収入(事業所得)がある場合、収入を正確に把握するためには、確定申告書が必要となります。 この場合、税務署への文書送付嘱託や調査嘱託が考えられますが、税務署は開示しないと思われます。 役場に対して、所得証明書(課税証明書)の文書送付嘱託も考えられますが、役場も開示しない可能性が高いと思われます。
STEP3 陳述書の提出・賃金センサスを根拠とした主張を検討
相手の収入について、記憶をもとに主張したり、賃金センサスを根拠に収入を推定して主張することを検討します。 本来、裁判所はこのような主張立証には難色を示しますが、相手が開示しないという不誠実な対応をとっている場合、請求する側の主張が認められる可能性はあると考えます。
STEP1 相手に資料の開示を求める
収入資料と同様に、裁判所を通じて、求釈明を行うことで、通常の場合、開示してくれると思います。
STEP2 調査嘱託・文書送付嘱託等を検討
こちらをご覧ください。
こちらをご覧ください。
こちらをご覧ください。
離婚裁判で負担を減らすためのポイント
③管轄を選択する
離婚裁判では、上述したように、管轄について、原告住所地と被告住所地を選択できます(裁判所が最適地を選択できる余地もありますが、例外的です。)。
どこの裁判所で手続を行うかによって、負担が異なるので、十分に検討しましょう。
例えば、原告が福岡市に居住していて、被告が東京都に居住している場合、福岡で裁判を行うのか、それとも東京で裁判を行うかで、負担は全く異なります。
基本的には、自分の住所地を管轄する裁判所の方が負担は少ないように感じます。
しかし、弁護士が代理人となっている場合、「テレビ会議システム」によって裁判に参加するため、一概に原告住所地が良いとは限りません。
テレビ会議システムとは、弁護士が自分の法律事務所の電話を使って、裁判の手続きに参加するというものです。
この場合、いちいち、裁判所に行く必要がないため、交通費の負担がなくなります。
例えば、原告が熊本に居住していて、代理人弁護士が福岡の法律事務所、被告が東京に居住しているとします。
もし、離婚裁判を熊本で起こせば、弁護士は毎回、熊本の家庭裁判所に出廷しなければなりません。熊本までの交通費は依頼者にとって負担となるでしょう。
なお、離婚裁判は、基本的には代理人弁護士のみが出廷することが多いので、依頼者本人の交通費はあまり考えなくて良いでしょう。
ところが、東京に離婚裁判を提起すれば、テレビ会議システムで参加できる可能性が高いでしょう。
この場合も、証人尋問や和解が成立する場合、基本的には東京の家庭裁判所に出廷しなければなりませんが、せいぜい1、2回程度だと思われます。
したがって、必ずしも「住所地に近い裁判所が必ず負担が少ない」と言い切れないことに注意すべきです。
④DV被害者等の保護
DV等の被害者の多くは、自分の居所や勤め先などの情報を相手に知られたくないと感じていらっしゃいます。
また、相手と接触したくないという方がほとんどです。
そのため、DV被害者等が依頼者の場合、次の配慮を検討すべきです。
例:訴訟委任状、書証(源泉徴収票、診断書、未成年者の学校関係資料など)、年金分割のための情報通知書等には、住所等が記載されていることが多いことから事前に十分な確認が必要です。
裁判は、離婚裁判であっても、公開することが原則です。
しかし、人事訴訟法は、一定の厳格な要件のもと、当事者尋問等の公開停止を認めています(22条)。
すなわち、当事者本人等が当該人事訴訟の目的である身分関係の形成又は存否の確認の基礎となる事項であって、自己の私生活上の重大な秘密に係るものについて尋問を受ける場合において、次のような事由があるときに限って、当該事項の尋問のみを公開停止できます。
その当事者等又は証人が公開の法廷で当該事項について陳述をすることにより社会生活を営むのに著しい支障を生ずることが明らかであることから、当該事項について十分な陳述をすることができないという真にやむを得ない事情がある場合■ 誤った身分関係の形成又は存否の確認がされるおそれの存在
当該陳述を欠くことにより他の証拠のみによっては当該身分関係の形成又は存否の確認のための適正な裁判をすることができないと認められる場合
上記の要件から、「DV被害者であることを公開されたくない」という事情だけでは公開停止にはできないと考えらます。
例えば、DV加害者から長期間にわたる異常な性生活等を強いられたことが「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるとして、請求原因を主張し、原告がその以上の性生活等の状況を公開法廷で陳述することを強いられるような場合であれば、上記要件を満たす可能性があるといえるでしょう。
離婚裁判を有利に進めるためのポイント
⑤親権や面会交流では裁判所による事実の調査を検討する
人事訴訟法は、附帯処分の裁判において、裁判所が事実の調査をすることができるとしています(33条1項)。
事実の調査とは、証拠調べの方法によらずに、裁判所が自由な方式で裁判資料を収集できることをいいます。
例えば、裁判所による審問、関係機関への照会のほか、比較的利用頻度が高いのは、家庭裁判所調査官による調査です。
具体的には、親権争いの場合、15歳以上の子供がいるケースでは、上記の「子の陳述書」を提出するほか、審問や家裁調査官による調査の活用が考えられます。
15歳未満の場合、子供の意向聴取は慎重に行う必要があることから、審問ではなく調査官による調査が適切でしょう。
また、非監護親(子供を監護していない)側から面会交流の附帯処分の申立てがあった場合で、監護親が面会交流に応じないケースなどにおいては、面会交流を調査官の調査の対象とすることが考えられます。
もっとも、裁判所は、訴訟段階での調査官の調査について、消極的な傾向です。
代理人弁護士としては、調査の必要性についてよく検討して、必要性が高い事案に限って活用すべきでしょう。
⑥あえて長期化させる場合?
後述するように、離婚裁判は、基本的には早期に解決すべきです。
しかし、訴訟戦略として、あえて長期化させた方がよい事案も考えられます。
具体例 婚姻費用を受け取っている妻(被告)の事案
例えば、被告である妻が原告である夫から、婚姻費用を受け取っている場合、子供がいなければ、離婚が成立すると、養育費を支払ってもらうことはできません。
また、婚姻費用については離婚が成立すると受給できなくなります。
妻が稼働能力を有すれば、仕事をすることで給与を得て離婚後も生活していくことは可能です。
しかし、妻が長年専業主婦であったような場合、離婚後、すぐに働くのは困難です。
また、財産分与や離婚慰謝料を支払ってもらえるような事案であれば、ある程度経済的に余裕ができるかもしれませんが、財産分与や慰謝料も見込めない事案であれば、離婚後の妻の生活が過酷となってしまいます。
このような場合は、離婚裁判を長期化させた方が経済的には良いでしょう。
しかし、積極的に訴訟を遅滞させるような活動を行うと、裁判所の印象を悪くしてしまいます。
したがって、このような事案では、後述するスピード解決を目指すのでなく、淡々と防御していく戦略を取ることとなります。
また、離婚判決後、控訴理由があれば控訴します。
控訴すれば判決が確定しないので、控訴審の間、婚姻費用を受給できることとなります。
具体例 親権者についての判断が難しい事案
親権については、監護の実績が判断基準として重要な場合があります。
そのため、現在監護している側の親にとっては、離婚裁判で長期化させた方が監護実績が積み上がるため、親権の判断では有利になるとも考えられます。
もっとも、親権については、あくまで子の福祉の観点から判断すべきですので、親権争いのすべての事案において、このような訴訟戦略を取るべきではありません。
また、裁判所も、監護実績を積むために、被告が意図的に長期化させていれば、心象が悪くするだけで、親権の取得は難しくなるでしょう。
そのため、親権については、いくら有利になるからと言っても、不必要な長期化は避けるべきです。
スピード解決のポイント
離婚裁判は、上記のとおり、解決までに時間を要する傾向にあります。
裁判所が公表している統計では、2016年における離婚裁判の平均審理期間は、12.7ヶ月(相手が争って判決までいった事案では17.3ヶ月)となっています。
そのため、少しでも早く離婚裁判を終了させることが、再出発するために重要となります。
そこで、以下、スピード解決のポイントについてご紹介します。
⑦調停前置主義の問題
離婚裁判では、調停前置主義が取られています。
これは、離婚裁判に先立って、まずは離婚調停を行うという原則です。
このような原則が取られているのは、家庭に関する紛争の特質からして、できるだけ話し合いでの解決を図るべきという考え方があるからです。
しかし、調停前置主義は、話し合いの余地がない事案にとっては、無用の制度です。
また、離婚調停も一般的には長期間を要する現状からすると、話し合いによる解決の可能性がない事案では、むしろ、弊害といえます。
例えば、当事者双方とも親権者となることを希望しており、双方とも譲歩の可能性がない事案や、不貞行為について相手が一切認めていないような事案では、離婚調停は継続する意味が乏しいといえます。
したがって、このような場合は、離婚調停を早々に打ち切り、離婚裁判を提起すべきといえます。
⑧被告側は予備的な請求を検討
離婚裁判において、被告が離婚に応じないという事案では、婚姻関係の破綻についてのみ争うという姿勢の代理人をよく見かけます。
しかし、離婚判決が予想される事案では、予備的にでも附帯処分等を検討すべきでしょう。
すなわち、被告側で、原告に対して、養育費、財産分与、慰謝料、年金分割、面会交流等を請求できる事案において、離婚判決が出ると、被告側は通常、控訴することとなります(別途調停手続も考えられますが、通常は控訴を選択します。)。
控訴してから、このような附帯処分等を申立てると、解決までに長期間を要してしまいます。
特に、財産分与や慰謝料については、争点整理が長期化しがちです。
また、面会交流についても、相手が面会交流を拒否するような事案の場合、試行的面会交流が必要となる場合もあり、長期化します。
したがって、被告側は、離婚裁判の早い段階において、予備的にでも附帯処分等を検討すべきです。
なお、被告側代理人としては、予備的とはいえ、附帯処分等を申立てると、離婚を許容しているような印象を裁判所に持たれてしまうという懸念があるかもしれません。
しかし、杞憂であり、長期化するリスクのほうが大きいかと思われます。
被告側が原告に対して、慰謝料を請求する場合は、予備的附帯請求ではなく、予備的反訴となるので注意が必要です。
この場合、原告以外の第三者を当事者とする請求も可能です(原告と原告の浮気・不倫の相手を反訴被告として慰謝料を請求する)
⑨期日外釈明の活用
離婚裁判は、概ね、1か月に1回程度、期日が開催されます。また、夏時期は夏期休廷、3月下旬ころから4月中旬ころは裁判官の移動時期のため休廷期間が設けられます。
このように期日間が長いことから、離婚裁判は長期化する傾向にあります。
期日間において争点整理を行うために、裁判所は、期日外においても、釈明権を行使することができます(民訴法149条1項)。
争点整理を早期に効率的に行うために、期日外釈明は有用ですが、実際に裁判所から期日外釈明が行われることはあまりありません。
離婚裁判の当事者から、期日間に、相手に対して求釈明を行うことで、離婚裁判を迅速に進めることが可能です。
特に、財産分与の整理は時間がかかる場合があります。双方とも代理人弁護士がついている場合、期日間に連絡をとりあうことで、早期解決に資することが可能です。
⑩和解の活用
離婚裁判においても、判決という結論ではなく、和解による解決も可能です。
和解は、穏当な解決法であるというだけでなく、スピード解決にも繋がります。
そのため、離婚裁判においても、和解は積極的に検討すべきでしょう。
もっとも、和解は、訴訟の早い段階であればメリットがありますが、判決間近になってくるとメリットが少なくなっていきます。
また、離婚調停を経た後、離婚裁判になっている場合、そもそも話し合いは行われているので、裁判の初期段階での和解は難しい場合が多いと思われます。
そのため、離婚裁判では、争点整理が一通り終わった後か、尋問実施後に、裁判所から和解の打診があることが多い傾向です。
和解するためには、離婚裁判の争点について、判決となった場合の「適切な見通し」を立てることができなければなりません。
例えば、判決では、「離婚が認められ、財産分与として原告に500万円支払いが命ぜられる」という見通しを立てたとします。
この場合、被告側として、「離婚に応じる代わりに、財産分与として600万円を支払ってほしい」などの和解案を提示することが可能となります。
もし、この事案で、離婚は認められない、財産分与としては1000万円が妥当、などの間違った見通しを立てた場合、和解が成立するのは難しいでしょう。その結果、原告・被告双方とも、損をすることとなります。
このような適切な見通しについては、離婚専門の弁護士でなければ判断が難しいため、弁護士へ相談されることをお勧めしています。
離婚が成立すると、戸籍には、「協議離婚」「和解離婚」「裁判離婚」などの離婚の種類に応じた記載がされることとなります。
戸籍の記載など気にならない、という方もいますが、「裁判離婚」という記載は、離婚裁判で争ったようなマイナスのイメージを持つ方もいらっしゃいます。
和解が成立すると、通常は「和解離婚」となりますが、裁判上の和解においても、協議離婚をする旨の和解は可能です。
例えば、和解調書に、「原告と被告は協議離婚することを合意し、協議離婚届を提出する。」という条項を記載して、訴えを取り下げれば、裁判上の和解を成立させながら、「協議離婚」という記載にすることが可能です。
ただし、この場合、和解成立後、相手が離婚届出への署名押印を拒否すると、改めて離婚裁判を提起する必要があります。
したがって、極端に気にならなければ、通常の「和解離婚」で良いかと思われます。
まとめ
離婚裁判で失敗しないために、最も重要なことは、離婚裁判を熟知し、かつ、依頼者目線に立ってくれる弁護士を代理人として選任することです。
このページは、離婚について豊富な経験がある弁護士が執筆しているので、他のサイトと比較して情報量は多いと思われます。
しかし、離婚裁判は、具体的な状況によって、取るべき戦略が異なります。
解説については、あくまで参考程度として、くわしくは離婚に精通した弁護士へご相談されることをお勧めいたします。
離婚裁判や離婚全般に関して疑問点などあれば、当事務所の離婚事件チームまでお気軽にお問い合わせください。
ご相談の流れはこちらからどうぞ。
