離婚の強制執行【弁護士が解説】

  
弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

 

強制執行とは

強制執行とは、文字どおり、相手方の財産を強制的に取り立てるものであり、非常に強力な手段です。

例えば、相手の預貯金、不動産、保険などを差し押さえて、金銭を回収します。

離婚問題では、慰謝料、財産分与、養育費、面会交流についての強制執行が問題となりやすい傾向です。

 

 

離婚のとき強制執行ができる条件

強制執行を行うためには、まず、「債務名義」(さいむめいぎ)と呼ばれる書類が必要となります。

これは、差し押さえる相手に対し、自分の権利の存在と範囲を証明した書類です。

離婚問題では、手続きの種類に応じて、公正証書、調停調書、審判書、判決書などが債務名義となり得ます。

参考:民事執行法|電子政府の窓口

手続きの種類 債務名義
協議離婚 公正証書
調停手続(離婚、養育費、財産分与、面会交流など) 調停調書
審判(婚姻費用、面会交流など) 審判書
裁判手続(離婚訴訟、慰謝料請求訴訟など) 判決書

すなわち、強制執行を行うためには、その権利を証明できる根拠書類が必要なのです。

以下、この債務名義あることを前提として、どのような強制執行を行うか解説します。

 

 

離婚の慰謝料の強制執行

まず、相手が多額の預貯金を有しており、当該口座の銀行等の支店名まで判明している場合、預貯金を差押えるのが効果的です。

次に、相手方が不動産を有するときは、当該不動産の競売を検討します。

ただし、不動産の競売は、オーバーローン(不動産の価値よりも住宅ローンなどの被担保債権の額が大きいこと)の場合は回収できません。

また、裁判所に収める予納金の負担や手続に時間を要するというデメリットがあります。

支払義務者が預貯金や不動産を所有していない場合、給与の差押えを検討します。

ただし、この場合は給与の4分の3に相当する部分は差押えることができません。

その他、相手方が高価な動産(宝石、絵画等)を保有している場合、当該動産を差押えることも考えられます。

しかし、実務上はほとんど行われていません。

 

 

離婚の財産分与の強制執行

財産分与の場合も、基本的には上記慰謝料と同じ内容を検討します。

ただし、財産分与が問題となる事案では、相手が生命保険等を契約し、その解約返戻金があるケースも想定されます。

このようなケースでは、相手方の保険(相手方の保険会社に対する配当金請求権、解約返戻金請求権、満期金請求権)を差し押さえることが可能となります。

 

 

婚姻費用の強制執行

婚姻費用とは、離婚が成立するまでの間、収入が多い方(通常は夫側)が収入が少ない方(通常は妻側)に対して支払わなければならない生活費のことをいいます。

養育費と似ていますが、養育費は離婚成立後に発生する費用であり、婚姻費用は、離婚が成立するまでの費用です。

相手が婚姻費用を支払ってくれない場合、家裁に婚姻費用の分担調停を申し立てます。

調停が成立しないと、婚姻費用の場合は審判という手続きに自動移行し、審判書をもらうことができます。

したがって、婚姻費用の場合は、通常、調停調書、又は、審判書が債務名義となります。

調停が成立、又は、審判が言い渡されたにもかかわらず、相手が支払ってくれない場合、強制執行を申し立てることとなります。

この場合は、上記の養育費と同じように検討すればよいでしょう。

 

 

面会交流の強制執行

面会交流は、その性質上、直接強制という方法に馴染みません。

つまり、子どもを、執行官がむりやり、非監護親の元に連れて行って面会交流を実現するということは行われないのです。

では、面会交流の調停で決まったとおりに面会交流が実現しない場合、どのようにすれば会えるようになるのでしょうか?

ここで、法が用意している制度が、間接強制という制度です。

間接強制とは、いわゆる罰金のようなもので、面会交流が実現しなかった場合に一回あたり一定額を監護親が非監護親に支払うということになります。

あわせて読みたい
間接交流について

 

 

離婚の公正証書による強制執行

公正証書とは

公正証書(こうせいしょうしょ)とは、公証人が公証人法・民法などの法律に従って作成する公文書のことです。

公証人というのは、法務大臣が任命する公務員であり、全国各地の公証役場において、ある事実の存在等について、証明・認証することを業務としている人達です。

上記のとおり、公正証書は債務名義となります。

したがって、相手が任意に支払ってくれない場合、強制執行が可能となります。

 

強制執行認諾文言に注意

強制執行認諾文言とは、公正証書の文言で、「支払わない場合は強制執行を受けても異論はない」ということを認めた文言です。

公正証書については、文面の中にこの強制執行受諾文言が入っていないと債務名義とならないため注意が必要です。

根拠条文

(債務名義)
第二十二条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
(一から四は略)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)

引用:民事執行法|電子政府の窓口

強制執行受諾のサンプル

第〇条(強制執行認諾文言)
甲は、第〇条に定める金員の支払を怠ったときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。

 

 

まとめ

以上、離婚事案の強制執行について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。

強制執行をするためにはその根拠となる債務名義が必要です。

また、実現する権利の内容や押さえる財産によって、裁判所に提出する書類が異なってきます。

さらに、強制執行にはデメリットもあるため、その他の方法も合わせて検討すべきです。

そのため、強制執行については、専門家に相談されることをお勧めします。

この記事が離婚問題でお困りの方にとってお役に立てれば幸いです。

 


 
 

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