経営者(社長)の婚姻費用はどうなる?【弁護士が解説】

  
執筆者 弁護士 宮崎晃
弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
離婚分野に注力し、事務所全体の離婚・男女問題の相談件数は年間700件を超える。(2019年実績)

婚姻費用とは

母子家庭婚姻費用とは、夫婦が結婚生活を送るために必要な全ての費用のことを言います。

具体的には、住居費、食費、光熱費、医療費、教育費、雑費などの費用などです。

養育費と似ていますが、養育費は離婚成立後に発生する費用であり、婚姻費用は、離婚が成立するまでの費用です。

したがって、「一時的なもの」というイメージを持たれ、あまり重要視しない方が多くいらっしゃいます。

しかし、離婚を決意してから、実際に離婚が成立するまで、時間がかかり、別居状態になることが多くあります。

協議で離婚が成立すれば、婚姻費用の受給期間は数ヶ月程度の場合もありますが、調停や裁判へ移行して長期化すると、受給期間は数年間にも及ぶ可能性もあります。

したがって、軽視せずに法律上の適正額であるかどうかを確認することを強くおすすめいたします。

婚姻費用について、詳しくはこちらのページで解説しています。

 

 

経営者(社長)の婚姻費用

会社経営者の場合、婚姻費用は、特に以下の点に注意が必要です。

年収が2000万円を超える場合

会社経営者の場合、年収が2000万円を超えることが多々あります。

このような場合、婚姻費用の算定が非常に難しくなります。

すなわち、婚姻費用の算定にあたっては、家庭裁判所は、通常、算定表を用います。

【 婚姻費用の算定表はこちら ⇒ 算定表(PDFファイル) 】

参考:最高裁判所「養育費・婚姻費用算定表

しかし、この算定表には年収の上限2000万円までしか記載されておらず、これを超える場合はどのようにするかが不明確なのです。

つまり、義務者(支払う側)の年収が3000万円、4000万円と上がっていけば、婚姻費用は上限2000万円で算定すべき(打ち止め)という考え方と婚姻費用も増加する(打ち止めなし)という考え方があります。

 

具体例

ここでは、具体的な事例をあげて、説明します。

会社経営者である夫の年収が3000万円、妻の年収が100万円、子どもが2人(10歳と8歳)、夫婦が別居して、妻が監護者として子どもたちを育てている場合を例にとって考えてみましょう。

具体例 夫婦が別居して、妻が監護者として子どもたちを育てている場合

夫:会社経営者(年収:3000万円)
妻:パート(年収:100万円)
子ども:2人(10歳、8歳)


算定表は(表13)婚姻費用・子2人(第1子及び第2子0〜14歳)を使用します。

表の「給与」の縦軸を見ると、義務者の年収の上限は、「2000」(万円)となっています。

妻の年収は100万円なので、横軸の「給与」の「100」(万円)を基準にします。

A:婚姻費用は上限で算定(打ち止めあり)

この考え方を取ると、義務者の年収を2000万円とするので、縦軸の「2000」の欄を右横にのばした線と、横軸の「100」の欄を上に伸ばした線が交差するのは「42〜44万円」の枠内となります。

したがって、この見解によれば、婚姻費用は月額42〜44万円が適正額となります。

B:婚姻費用も増加する(打ち止めなし)

では、婚姻費用も増加する(打ち止めなし)ではどうなるでしょうか。

この考え方を取ると、夫の年収が算定表の上限を超えているため、算出できません。

この場合、次のような計算式を使って算出します。(計算がやや複雑です。)

① 基礎収入を算出

給与所得者の場合:総収入 × 係数(0.38ないし0.54)

基礎収入とは、実際の収入から公租公課、職業費及び特別経費等を控除したものです。

算定方式は、簡易迅速に算定するため、統計等に基づいて生活費を指数化しています。

上記のように、係数が0.38ないし0.54と幅があるのは、生活費が、必ずしも所得額に比例するわけではないからです。

つまり、所得が上がるにつれて生活費も同じ割合で上昇するという性質のものではないので、高額所得者の基礎収入の割合は、そうでない者に比較して小さくなります。

ここでは夫の係数を0.38、妻の係数を0.50で算出することにします。

夫の基礎収入:3000万円 × 0.38 = 1140万円
妻の基礎収入:100万円 × 0.50 = 50万円

② 生活費指数を算出

次に、生活費の割合を定めます。

子の標準的な生活費の指数(以下「子の指数」という)は、親を100とした場合、年齢0歳から14歳までの子については62、年齢15歳から19歳までまでの子については85となると考えられています。

【親を100とした場合】
子どもの年齢:0~14歳→62
15~19歳→85

具体例の場合
夫の係数:100
妻の係数:100
子どもの係数:62

③ 権利者世帯に割り振られる婚姻費用

Z =(X + Y)×(100権利者の指数62子の指数62子の指数 )/(100義務者の指数100権利者の指数62子の指数62子の指数

Xは義務者(夫)の基礎収入、Yは権利者(妻)の基礎収入。

具体例の場合
(1140万円 + 50万円)×(100 + 62 + 62)/(100 + 100 + 62 + 62)≒ 1175万円

④ 義務者から権利者に支払うべき婚姻費用の分担額

Z(上記の額)− Y(権利者の基礎収入)

したがって、
1175万円 − 50万円 = 1125万円

となり、これを12か月で除すと、1ヶ月あたりの婚姻費用は、93万7500円となります。

以上から、Aの婚姻費用は上限で算定(打ち止めあり)という考え方では、婚姻費用は月額42〜44万円程度、Bの婚姻費用も増加する(打ち止めなし)という考え方では月額93万7500円と、考え方の違いで大きく差が生じることがわかります。

夫からすると、当然、Aの考え方が有利であり、妻からするとBの考え方が有利となります。

この点については、いずれかの考え方が正しいというわけではなく、最高裁判所の判断も示されていません。

したがって、具体的な状況に照らして、判断する必要があります。

婚姻費用の基礎収入の係数や生活費指数等についての詳しい解説はこちらのページをご覧ください。

また、他にも所得がある場合についての詳しい解説は、こちらのページをご覧ください。

 

 

まとめ弁護士

以上、会社経営者の婚姻費用について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。

会社経営者の場合、婚姻費用の算出が通常の算定表ではできないことがあるので注意が必要です。

この場合、複雑な計算式を用いて算出しなければならない可能性があります。

また、婚姻費用の算定の前提として、すべての所得をもれなく調査しなければなりません。

所得の調査には確定申告書の開示が重要ですが、これを正確に理解するためには専門的な知識と経験が必要と考えられます。

したがって、婚姻費用を適切に把握するために、専門家の助言を得るようにされることをお勧めいたします。

当事務所の離婚事件チームは、会社経営者の事案の婚姻費用について、専門知識とノウハウを共有しております。

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