メールだけで浮気の慰謝料が発生しますか?【弁護士が解説】

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  

メールの内容しだいでは、不貞行為があったと認定され、慰謝料の支払い義務が発生する可能性もあります。

以下、具体的な相談事例をもとに詳しく解説いたします。

 

慰謝料について質問です。

私は、とある男性とメールをしていたのですが、その男性の奥さんがメールのやりとりをしていたことに気づいたようで、私に対して慰謝料を支払うよう求めてきました。

しかし、私はこの男性と肉体関係を持ったことはありません。

それでも、慰謝料を支払わなければならないのでしょうか。

不倫の慰謝料とは

不倫とは、通常、結婚関係にある夫婦の一方が、夫もしくは妻以外の人物と交際していることをさす言葉です。

不倫は道義的に許されない、というのが一般的な感覚だと思いますが、「不貞行為」とは少し異なります。

法律上、不貞の被害者は、他方配偶者の不貞行為を根拠として、他方配偶者及び不貞行為の相手方に対し、不法行為による慰謝料を請求することができると考えられています。

この不貞行為の意味について、実務においては、「配偶者以外の者と性的関係(肉体関係)を結ぶこと」と狭義に解する説が有力です。

不貞行為をこのように狭義に考える見解に立てば、不倫と不貞行為の意味は異なることになります。

例えば、交際はしていても、まだ肉体関係がない場合、不倫関係にあっても、不貞行為とまでは認定できないこととなります。

イメージとしては、不貞行為より不倫の方が該当する範囲が広くなります。

 

 

不貞行為が認められるか

一方配偶者が、他方配偶者以外の第三者と肉体関係を持った場合、その行為は婚姻関係にある夫婦の平和を破壊させてしまうことになります。

そのため、肉体関係を持つことは「不貞」と評価され、慰謝料を支払うべき義務が発生します。

メールの内容から不貞行為が認められる場合は、慰謝料を支払う義務が発生します。

 

メールの内容から不貞行為が認められるか

この点について、東京地裁平成22年1月28日判決は、メールの内容から、直接不貞行為を認めました。

判例 メールの内容から、直接不貞行為を認めた裁判例

X:夫 A:妻 Y:男性(主張「不貞行為はしていない」)

■認定された事実

  • XとAは、昭和62年3月18日に婚姻した
  • AとYは、平成21年4月1日から同月4日までの間、二人で香港・マカオに海外旅行をした
  • Aは、海外旅行には一人で出かけると述べていたが、Xが旅行会社に問い合わせたところ、Yと二人であることが分かった
  • YとAは、マカオのホテルでは、同室に宿泊した
  • Yは、旅行後、Aに対し、「幸せな四日間」「日が経つに従って思い出されることは幸せなことばかりです。」「あの旅は本当にステキなものでした。」などと記したメールを送信した

■裁判所の判断

「Yは、Aに対し、頻繁にメールを送り、Aからも折々に返信を受けていることが認められるところ、その内容に照らせば、YとAは、相当に深い関係にあったと推認され」る。
「Yは、本件旅行後に、Aに対し、「幸せな四日間」、「荷が経つに従って思い出されることは幸せなことばかりです。」、「あの旅は本当にステキなものでした。」などと記したメールを送信していること、Aは、XにYと一緒に旅行することを隠して本件旅行に出発し、旅行先のホテルにYと同室で宿泊したことからすると、本件旅行に際し、YとAとの間で不貞行為があったと認めるのが相当であり、これに反するYの供述は、採用することができない。」

【東京地裁平成22年1月28日判決】

以上の裁判所の判断からは、メールの内容が、不貞を行ったことを裏付ける証拠として採用されていることがわかります。

ただし、上記のYとAについて、二人が同室に宿泊した事実も認定されています。

そのため、同室に宿泊した事実が認定されていなかった場合、上記メールの内容だけでは不貞行為が認められなかった可能性が十分にあります。

また、以下東京地裁平成25年3月15日判決では、慰謝料を認めませんでした。

判例 メールの内容から、直接不貞行為を認められなかった裁判例

東京地裁平成25年3月15日判決では、原告が、
「性交渉を強く示唆する内容のメールを頻繁にやり取りし、「愛してる」「大好き」等の、親密な男女間でしかあり得ない愛情表現も頻繁に交わしていること、被告が、Aに対し、被告からのメールや手紙を廃棄するよう指示しており、」Aが、実際に1か月半ほどの送信メールを削除していること、被告とAは、双方の家族の不在時を見計らって電話でも頻繁に会話していることから、不貞をはたらいたことは明らかだと主張していました。


しかし、裁判所は、
「メールは往々にして過激な表現になりがちなものであり、また、被告とAは小学校の同級生であるという気安さから、気晴らしにきわどい内容を含むメールや電話のやりとりを楽しんでいたとも考えられ、」「被告とAとの間で交わされたメールに性交又は性交類似行為を示唆するような表現が多数あるからといって、被告とAが実際にこれらの行為に及んでいたと断定することは躊躇される。」と判断しました。

【東京地裁平成25年3月15日判決】

この事件では、実際にどのような表現のメールがやり取りされたのかは公表されていませんが、かなり過激な内容だったことが伺われます。

ただ、その他の事情として、「被告とAが、名古屋と東京という遠隔地に居住しており、双方の家族に知られないように密会することは困難である」とも判断されています。

そのため、現実に肉体関係を持つことができなかったのではないかという事情が、不貞行為を認めないという結論を導いたのではないかと考えられます。

 

 

慰謝料が発生するのは肉体関係だけではないことに注意

不貞行為が認められなかったとしても、過激な内容のメールのやり取りを目にすれば、当然不快な思いをします。

東京地裁平成24年11月28日判決は、過激な内容のメールのやり取りについて、不貞行為を認めなかったものの、婚姻生活の平穏を害するとして、慰謝料30万円を認めました。

裁判官によって判断が分かれるところなのかもしれませんが、婚姻関係の平穏を害する行為というのは、肉体関係を持たれることだけではないため、過激なメールのやり取りで慰謝料を認めないことには疑問が残ります。

上記のとおり、肉体関係以外でも、婚姻生活の平穏を害することはあります。好意を持った相手に配偶者がいる場合は、その方に配慮した対応が必要になります。

慰謝料が発生するのは肉体関係だけではないことに注意されてください。

あわせて読みたい
慰謝料とは

 

 

まとめ

以上、メールと慰謝料の関係について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。

メールだけであっても、状況しだいでは不貞行為が認定され、慰謝料の支払い義務が認められる可能性があります。

特に、メール以外にも、性交渉があったことを伺わせる事実関係(一緒に旅行など)が存在する場合、不貞行為の存在が認められやすくなります。

また、不貞行為の損害が認められなくても、メールの内容によってはそれ自体が不法行為に該当し、慰謝料の支払い義務が認められる可能性があります。

慰謝料の発生義務については、具体的な状況によって見通しが異なるため、一度離婚を専門とする弁護士に相談することをお勧めします。

この記事が離婚の問題に直面されている方にとって、お役に立てば幸いです。

 

 

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