結婚したときよりも預貯金が減った場合の財産分与はどうなる?

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

 

弁護士の回答

弁護士婚姻生活が長い場合、特有財産(結婚前から有している財産)の主張が認められない可能性があります。

財産の取得時期が古い場合、証拠が散逸してしまい、何が原資であったかが不明になる事案があります。この場合、特有財産か否か不明なものは、分与対象財産と推定される可能性があります。

以下の具体例に沿って解説します。

具体例

Aさん(夫)とBさん(妻)は、10年前に結婚しました。

Aさんは、結婚前に預貯金として甲銀行に 1000万円の普通預金をもっていました。

結婚してからは、AさんはBさんに甲銀行の通帳やキャッシュカードを預けて、家計の管理をしてもらっていました。

結婚してから数年が経過し、AさんとBさんは些細なことで口論するようになり、夫婦関係は悪化の一途をたどりました。

Aさんは、離婚を決意し、Bさんと別居することにしました。

そこで、Bさんに対して、甲銀行の通帳等を返してもらったところ、預貯金が 700万円に減っていました。

取引履歴を見ると、婚姻後、様々な支出で 500万円まで減少し、その後 700万円まで増加していました。

Aさんには他に、乙銀行に 500万円の預貯金があります。

Bさんは自分名義の預貯金 1000万円があるものとします。

 

 

財産分与とは

財産分与とは、簡単にいうと、「夫婦が結婚生活において協力して築いてきた財産を2分の1ずつ分ける」という制度です。

例えば、婚姻期間中に取得した預貯金、不動産、株式、保険(解約返戻金)、自動車などが対象となります。

婚姻期間中に取得した財産は、名義の如何を問わず、基本的には財産分与の対象となります。

例えば、夫名義の預貯金や不動産であっても、それが婚姻期間中に取得したものである場合、財産分与の対象となるのです。

財産分与についてくわしい解説はこちらをご覧ください。

 

 

特有財産とは?

民法は、財産分与に関して、結婚前から有している財産は、特有財産に当たると規定しています。

夫婦間における財産の帰属

民法第762条 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。

 2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

なお、「自己の名で得た財産」の意義について、家裁実務上は、限定的に解釈される傾向です。

すなわち、単に名義が一方にあるだけではなく、その対価も実質的に一方のものであることが挙証されない限り、2項の共有の推定が働くものと考えられます。

本件では、Aさんは結婚前に 1000万円を持っていました。

そうすると、民法762条1項からは特有財産ということになり、Aさんの預貯金 1000万円は財産分与の対象から除外されることとなります。

 

 

特有財産がある場合の財産分与の算定方法

弁護士財産分与の算定は、次の式で算出します。

A:夫名義の財産

B:妻名義の財産

それぞれの取得分:( A + ÷ 2

特有財産がある場合は、その分を除外します。

( A + B − 特有財産 )÷ 2

本件では、次のようになります。

特有財産がない場合

Aさんの財産:甲銀行 700万円 + 乙銀行 500万円 = 合計 1200万円

Bさんの財産:預貯金 1000万円

それぞれの取得分:(1200万円 + 1000万円)÷ 2 = 1100万円

Bさんの取得分:1100万円 − 1000万円 = 100万円

特有財産がある場合

Aさんの財産:甲銀行 700万円 ( うち 1000万円は特有財産 ) + 乙銀行 500万円 = 合計 1200万円

Bさんの財産:預貯金 1000万円

それぞれの取得分:(1200万円 + 1000万円 − 1000万円)÷ 2 = 600万円

Aさんの取得分:( Bさんの預金 1000万円 )−( Bさんの取得分 600万円 )= 400万円

以上から、Aさんの婚姻前の預貯金1000万円が特有財産だと認められた場合、AさんはBさんから400万円を取得できることとなります。

特有財産だと認められない場合、Aさんは逆にBさんに対して100万円を交付しなければならないため、特有財産の主張が認められるか否かはとても重要だと言えます。

 

 

婚姻して長期間が経過している事案の留意点

本件のように、婚姻後長期間(本件は10年)が経過している事案では、特有財産の主張が認められない可能性があります。

特有性を認めない主張の根拠
  • 財産分与は、存在する財産を分割する制度であるから、婚姻前残高より減少した分を考慮する(取り返す)ことは財産分与は本来的に予定していない。
  • 夫婦の生活に当たって婚姻前の財産を全く投じることなく生活することの方が稀であり、特に、普通口座預金については、夫婦の共同生活のため用いたとの事実自体から、その特有性を放棄し、家計(共同生活)に投じたものと見て良いと考えるべきである。

また、執筆者の経験では、裁判官によって、見解は区々です。

婚姻期間が5年間を超えると、特有性を放棄したと考えるという裁判官もいます。

また、婚姻期間が長期間経過していても特有性の完全な放棄は認めないものの、当該普通預金口座が家計の支出と渾然一体となっている場合、「財産分与の基準時(通常は別居時)の価額から同居期間中の最も低い価額を控除した額を財産分与の対象となる」という裁判官もいます。

この見解では、本件は次のような結果となります。

夫婦共有財産の考え方を変えた場合

Aさんの財産

甲銀行の夫婦共有財産:700万円(別居時)−500万円(同居中の最も低い金額)=200万円

乙銀行:500万円

→ 200万円 + 500万円 = 合計700万円

Bさんの財産:預貯金1000万円

それぞれの取得分:( 700万円 + 1000万円 )÷ 2 = 850万円

Aさんの取得分:( Bさんの預金 1000万円 )−( Bさんの取得分 850万円 )= 150万円

上記のとおり、AさんはBさんから150万円を取得できることとなります。

 

本件における弁護士の考え

以上から、財産分与においては、基本的には特有財産の主張は認められています。

しかし、婚姻後長期間外経過し、当該口座が渾然一体となっているような場合、特有財産の主張が認められない可能性があるので注意されてください。

ケース・バイ・ケースによる判断が必要なため、詳しくは、財産分与に詳しい専門家にご相談の上、ご検討されてください。

なお、財産分与の算定方法などくわしい解説はこちらをご覧ください。

 

 

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