遺産不動産の賃料収入は財産分与の対象になりますか?

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  

 

財産分与について質問です。

婚姻期間中に父が亡くなり、遺産として不動産を取得しました。

私は、遺産不動産には住まずに人に貸して賃料収入を得ていましたが、賃料収入が1000万円ほど貯まった頃、妻と離婚することになりました。

妻は、貯めてきた賃料収入1000万円についても財産分与の対象であり、2分の1は妻のものだという主張をしてきたのですが納得できません。

遺産不動産の賃料収入も財産分与の対象になるのでしょうか。

 

弁護士の回答

弁護士小野佳奈子明確な基準があるわけではなく、具体的な事案ごとに検討をする必要があります。

財産分与とは

簡単にいうと、財産分与とは、離婚に伴い、婚姻中に夫婦で築いた財産を2分の1にするという制度です(民法768条1項)。

財産分与の対象となる財産は、「婚姻中」に「夫婦で」築いた財産です。

そのため、婚姻前から有していた財産や、相続や贈与により個別に取得した財産等の夫婦で築いたといえないような財産は、各自の特有財産として扱われ、原則として、財産分与の対象とはなりません(民法762条1項)。

なお、自己の持つ財産が特有財産であるとして財産分与の対象から除外するためには、その特有財産を持つ者が主張立証しなければなりません。

 

財産分与について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

特有財産が財産分与の対象になる場合

上述のように、特有財産については、原則として財産分与の対象にはなりません。

そのため、本事例における遺産不動産についても、原則として財産分与の対象にはあたりません。

しかしながら、特有財産についても、婚姻後に夫婦が協力してその価値を維持・増加させたような場合には、貢献度の割合に応じて財産分与の対象とされる可能性があります。

 

判例東京高裁平成7年8月13日判決

夫婦の一方の特有財産は、他方配偶者が「その維持に積極的に寄与し、その散逸を防止したなどの特段の事情がない限り、財産分与の対象とすべきものではない。」としています。

 

生活費のイメージイラストしたがって、本事例における遺産不動産についても、遺産不動産のリフォーム代を妻が支払ったという場合等には、例外的に、遺産不動産が財産分与の対象として扱われる可能性があります。

しかしながら、特有財産が財産分与の対象として取り扱われる場合、他の共有財産とは異なり、一律に2分の1に分けるという扱いがなされるわけではありません。

具体的な算定方法はともかく、他方配偶者が貢献したことにより、特有財産の価値が維持・増加した範囲において分与対象となると考えられます。

なお、他方配偶者の寄与によって維持・増加された範囲について厳密に認定することは困難であり、分与対象財産として評価算入すべき価額については、裁判所の合理的裁量に委ねられることになるでしょう。

 

 

特有財産から賃料収入が発生した場合はどうなる?

では、本事例のような、特有財産(遺産不動産)から発生した果実(賃料収入)については財産分与上どのように扱われるでしょうか?

遺産不動産を特有財産として扱う以上、遺産不動産から発生した果実についても、そもそも財産分与の対象としない等の何らかの形でその特有性を考慮すべきであると考えられます。

他方で、例えば、妻が夫に代わり遺産不動産や賃料収入の管理をしており、毎月一定の賃料収入を得ることについて積極的に協力しているような場合には、遺産不動産そのものの取扱いと同様に、財産分与上一定の考慮がなされるべきでしょう。

この点、冒頭で述べたように、明確な裁判基準があるわけではないため、個別具体的な事案に応じて検討していく必要があります。

実務上、当事者の立場としては、遺産不動産の賃料収入の取扱いのように明確な基準が定まっていないような財産については、双方が、事案に即して、自己に有利な主張をしていくことになるでしょう。

なお、現在明確な基準があるわけではないため、裁判所の判断としても、双方の主張や前提となる具体的事実を踏まえ、各事案ごとに個別具体的な判断がなされると考えられます。

 

 

 

財産分与

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