預貯金は、別居時と婚姻時で増えた額のみが財産分与の対象か?

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  保有資格 / 弁護士

 

財産分与についての質問です。

私は、結婚して7年になる会社員です。現在、別居して離婚協議中で、財産分与が争いになっています。

私名義のA銀行の口座があるのですが、結婚前の預金残高は100万円でした。

別居時の預金残高は200万円でした。

ちなみに、そのA銀行の口座は、私の給与が振り込まれる口座であり、そのうち増えた100万円のみが財産分与の対象になりますよね?

 

 

 

弁護士の回答

弁護士竹下龍之介婚姻から7年を経過しており、その口座が、給与口座ということで、増減を繰り返す性質の口座であることからすれば、別居時の残高である200万円全額が財産分与の対象になると見込まれてしまいます。

 

婚姻時の預貯金について

結婚前の預金残高は特有財産ということになりますので、今回の質問においては、法的にいうと、特有財産が100万円存在したことになります。

この点、現在の預金が200万円ですから、その200万円から100万円を控除した100万円のみが共有財産になるようにも思えます。

しかし、争いになった場合、事はそう単純ではなくなります。

 

特有財産性を判断する際のポイント

弁護士争いになった場合、裁判所は特有財産性を判断するに際し、どこに着目するのでしょうか。

端的にいえば、その口座の性質に着目しているようです。

例えば、預金の中には、ほとんど動きがみられないいわゆる蓄財のための口座と、日々の生活に使われる出し入れが激しい口座(給与の振込口座、クレジットカードの引落先に指定している口座、生活費としての現金を引出す口座等)があります。

前者のような蓄財のための口座であれば、「婚姻時に100万円があり、別居時にそれが200万円になっていた場合、共有財産部分は差額の100万円(別居時の残高から婚姻時の残高を控除)」という考え方がすんなりとあてはまります。

しかしながら、後者のような生活のための口座であれば、別居時の残高全額が共有財産(別居時の残高から婚姻時の残高を控除しない)という考え方がとられることが実務上は多々見受けられます。

(婚姻期間がある程度の期間あることが前提ですが)預貯金の出し入れが頻繁に行われる日々の生活に使われるタイプの口座の場合には、預貯金の増減が激しいのが一般的であり、その間に渾然一体となり、特有財産部分との区別がつかなくなってしまうと評価されうるためです。

 

婚姻時の預貯金についての考え方

今回の質問内容と同種のケースで、近似の裁判例でも、以下のように婚姻時の預貯金等残高を控除すべきではないと判断した例があります。

判例

「同居期間が7年に及んでおり、預貯金等はこの間に渾然一体となって被告らの生活費等に充てられ、また同居期間中の収入により補填されていたと考えるのが相当であるから、婚姻時の預貯金等残高を控除すべきではない。」

学説上も、婚姻時の預貯金について以下のように、考え方は分かれています。

学説上の見解
  • 基準時の残高から控除するとする見解
  • 家計と完全に分離された定期預金等がそのまま残っている場合であれば特有財産とみることができるとしても、その他は原則として特有財産ではなくなるという見解

弁護士このように、預貯金の財産分与において特有財産を主張することはよくあります。

しかし、その特有財産性が争われると、立証が非常に重要になります。

 

 

特有財産を主張したい場合のポイント

定期預金で婚姻期間中は一切手を付けていない場合や、ある口座について婚姻後は一切手をつけていない場合等は特有財産性の立証は比較的簡単です。

その口座そのものの通帳や取引履歴等を裁判所に提出すれば足りるからです。

しかし、質問のように、給与の振込先口座にある預金になると、婚姻期間が極めて短い場合等は別として、原則としては、渾然一体として全額が共有財産となってしまう可能性があります。

このように、預金について、特有財産性を主張したい場合にはその口座の性質がポイントになります。

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