離婚を迫られている。結婚している間に築いた財産等はどうなる?
A) 相手に対して財産分与を請求できます。
離婚した当事者の一方には相手に対して財産の分与を求める権利があり、これを財産分与請求権といいます。
この財産分与の目的は、それまで夫婦が協力して築き上げてきた財産を公平に分配することです。
財産分与とは
財産分与とは、離婚する際に、夫婦が結婚生活の中で築き上げた財産を公平に分配することをいいます。
本来、結婚とは責任を伴うものです。簡単に離婚なんてできません。相手方が離婚を求めてくるのであれば、相手方に対しては、財産分与を求める権利があります。
相手方から離婚を迫られている状況ですので、離婚後困らないようにするために、適切な財産分与を受けるべきです。
財産分与は、基本的には夫婦共有財産の2分の1を受け取ることが可能です。
例えば、夫名義の財産が3000万円(預貯金500万円、自宅不動産1000万円、保険500万円、株式300万円、退職金700万円の合計)、妻名義の財産が100万円(預貯金のみ)あったとします。
この場合、以下の計算式より、妻は夫に対して、1450万円の財産分与を求めることが可能です。
夫婦共有財産:3000万円 + 100万円 = 3100万円
それぞれの取得分:3100万円 ☓ 1/2 = 1550万円
妻の夫に対する請求:1550万円 -100万円 = 1450万円
なお、財産分与は、基本的には、離婚する前に取り決めることになります。
離婚後でも請求することは可能ですが、期間制限(原則として2年間)がありますし、後述する婚姻費用の関係でも離婚成立前に取り決めを行うべきです。
財産分与の問題点
財産分与については、以下の3つの問題があります。
①対象財産を正確に把握できない
まず、対象となる財産が何かよくわからない、調査できない、という問題があります。
というのも、相手方が財産を開示してくれない、開示しても過少申告している(相手方が財産を隠すことはよくあります。)、などのケースが見受けられるからです。
このような場合、財産分与に精通した離婚専門の弁護士でなければ調査は難しいと考えられます。
また、婚姻時に有していた財産や婚姻後でも贈与や相続で譲り受けた財産は、特有財産といって、財産分与の対象から外れますが、これらについても、素人の方は、どうやって証明すればよいのかわからない、という問題があります。
②評価が難しい
対象となる財産が判明したとしても、次に、それを適切に評価するのが難しいと考えられます。
評価しなければならないのは、不動産、株式、退職金、保険、貴金属などの動産などです。
例えば、不動産については、固定資産評価額を「財産分与の基準」としなければならないと考える方もいますが、これは誤解です。固定資産評価額は、あくまで課税の局面での評価額であり、財産分与における評価額は「時価」と考えるべきです。
通常、時価のほうが固定資産評価額よりも高額なので、固定資産評価額で財産分与を考えると、適切な額とはなりません。
例えば、上記の例で、自宅不動産の時価を1000万円としていましたが、仮にこの固定資産評価額が400万円の場合、それを評価額として財産分与を計算すると、妻の取得する額は1150円となってします。
時価であれば、1450万円を取得できたのですから、300万円も損したことになります。
夫婦共有財産:2400万円 + 100万円 = 2500万円
それぞれの取得分:2500万円 ☓ 1/2 = 1250万円
妻の夫に対する請求:1250万円 − 100万円 = 1150万円
③相手方が応じない
財産分与の対象財産が判明し、適切に評価できたとしても、相手方が応じてくれなければ協議での解決は困難です。
離婚においては、相手方が感情的になっていたり、相手方への恐怖心などから、ご本人が相手方と協議を行うことが難しい場合が多くあります。
離婚を迫られている場合の財産分与のコツ
離婚を迫られている場合、共通した傾向が見られます。
上記で解説した問題点を踏まえて、うまく財産分与を行いためのコツについて、解説するのでご参考にされてください。
相手方に財産開示を求める
相手方の財産を自分で調査する場合、上記のとおり、素人の方が自分でやると難しいと考えられます。
また、ある程度調査できる方でも、自分で調査できる範囲には限界がるため、相手方に対して財産目録の開示を求めるとよいでしょう。
具体的には、現金、預貯金、不動産、自動車、保険、株式、退職金、その他高価な動産(貴金属等)の内訳の目録を提出してもらいます。
財産目録の書式は何でも構いませんが、当事務所ではサンプルデータをホームページに掲載し、無料でダウンロードが可能です。
ダウンロードはこちらからどうぞ。
基準日を確定することがコツです。
基準日とは、財産分与の対象とする財産を確定する日付をいいます。
基準日を固定しておかないと、対象財産を確定できず、財産分与ができません。
基準日については、いろいろな考え方がありますが、別居が先行していれば別居日でよいと思います。
また、別居していなければ、離婚を求めた日や財産目録の記載日でもよいでしょう。
財産目録の開示と合わせて、その裏付けとなる資料の提出も求めることがポイントです。
証明資料としては、例えば預貯金であれば通帳の写しとなります。
詳細は、上記のサンプルデータを参考にされてください。
評価については相手方の主張を鵜呑みしない
財産分与の対象財産のうち、評価について問題となりやすいのは不動産の評価です。
不動産は景気の変動等を受けて、時価が上下しやすい資産です。
そのため、当事者の主張が実際の時価とかけ離れていることが往々にしてあります。
例えば、相手方名義の不動産で、離婚後も相手方が居住する場合、相手方にとっては、時価よりも安く評価した方が有利です。
具体的には、時価が2000万円の不動産があったとします。
相手方が1500万円と主張し、それを前提に財産分与した場合、相手方から750万円の代償金を受け取ることとなります。
(対象財産が当該不動産だけであることを前提としています。)
1500万円 ÷ 2 = 750万円
しかし、時価は2000万円なので、本来の裁判基準からすると1000万円の財産分与を受けることができたはずです。
2000万円 ÷ 2 = 1000万円
このように、相手方の主張を鵜呑みにした場合、250万円も損をしたことになるのです。
1000万円 – 750万円 = 250万円
このような損を避ける方法としては、専門化に評価額をチェックしてもらうという方法があります。
また、自宅不動産については、売却処分するという方法もあります。
売却であれば実際に売れた金額を財産分与の対象とするのですから、評価が誤っていたという心配はありません。
強気の姿勢で財産分与を求める
ご質問の事案は、相手方から離婚を迫られているというケースです。
このようなケースでは、相手方が離婚を希望していることから、パワーバランスは相談者の方の方にあると考えられます。
すなわち、相談者が相手方の離婚を拒めば、離婚調停や離婚裁判を起こさなければならず、そのためには多大な労力やコストを伴います。
したがって、多少は強気の姿勢で財産分与を求めてよいと考えられます。
例えば、財産分与としては1000万円が妥当な事案において、「1100万円」を求めるなどです。
もちろん、求めすぎると交渉は決裂するのでさじ加減が必要となります。
以上、財産分与のコツについて解説しました。
財産分与は重要な離婚条件です。
素人判断はリスクがあります。一番確かな方法は、やはり専門家に相談されることだと思いますので、あくまで参考程度にとどめるようにされてください。
財産分与について、調査方法や評価手法を知りたい方はこちらもごらんください。

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会
保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
専門領域 / 個人分野:家事事件 法人分野:労務問題
実績紹介 / 離婚の相談件数年間700件超え(2019年実績)を誇るデイライト法律事務所の代表弁護士。離婚問題に関して、弁護士や市民向けのセミナー講師としても活動。KBCアサデス、RKB今日感テレビ等多数のメディアにおいて離婚問題での取材実績がある。「真の離婚問題解決法」「弁護士プロフェッショナル」等の書籍を執筆。
