保険解約返戻金を特有財産から出していたら財産分与はどうなる?
私は結婚前から契約していた保険を解約し、結婚後にその解約返戻金を原資として積立型の保険に加入しました。
妻と離婚した今、財産分与の協議をしているところですが、元妻は、現在の解約返戻金全額を財産分与の対象とすべきだと主張しています。
しかし、原資は独身時代から築いた私の財産なので、分与対象ではないはずです。
元妻の主張が通ってしまうのでしょうか?
この問題に弁護士がお答えします。
特有財産と共有財産が混在している場合
①夫婦の一方が婚姻前から有する財産と、②婚姻中自己の名で得た財産は、特有財産(=財産分与の対象にならない)とされています(民法762条1項)。
他方、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定されます(民法762条2項)。
したがって、特有財産と共有財産が混在してしまっている場合、特有財産であると主張する側が特有財産であることを立証しなければなりません。
過去の裁判例
この問題につき、東京家庭裁判所は、客観的資料に基づく立証がない限り、特有財産とはいえないものと判断しています。
問題になった事例では、以下の経緯がありました。
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Aさん(妻)とBさん(夫)は、平成13年に婚姻し、平成20年に離婚した。
離婚後にAさんから財産分与の申立てがなされた。
Bさん名義の口座から、婚姻直後に、独身時代からの保険が解約され、240万円が払い戻された。
払い戻しから2か月後に保険料頭金200万円が払い込まれた。
上記200万円のうち、140万円が、独身時代からの保険の解約返戻金240万円を原資とするものであった。
離婚までに373万円が払い込まれた。解約返戻金は355万円であった。
Aさんの主張:
355万円全額が財産分与の対象であるBさんの主張:
355万円のうち、上記140万円分に相当する133万円が財産分与の対象である。裁判所は、当該200万円がBさんの特有財産により支払われたと認めるに足りる資料がない以上、基準時の解約返戻金相当額(=全額)を財産分与の対象とすべきと判断しました。
当該裁判例では、200万円を独身時代から積み立てたものであるとの証拠が、Bさん本人の陳述書しかなく、その他にそれがわかる客観的資料がありませんでした。そのため、裁判所は、Bさんの反論を認めませんでした。
また、独身時代の解約返戻金を取得してから、新たな保険に加入するまでに2か月が経過しており、140万円に相当する部分が独身時代の解約返戻金を原資と考えるには時間が経過しすぎであるとの判断をして、Bさんの陳述書の信用性を否定しました。
相談者の場合
共有財産と特有財産が混在している場合、特有性の主張をすることは難しい場合があります。特に時間が経過している場合はなおさらです。
相談者の方の場合、独身時代から築いたものが原資となっていることについて、客観的な資料を準備しなければなりません。
たとえば、①払い戻された金額を示す資料(保険会社に問い合わせたら取得できる可能性があります。)、②払い込み時の金額を示す資料(これも保険会社に問い合わせたら取得可能でしょう。)、③これらの原資が同一であることを示す資料(これは通帳の取引履歴からわかる可能性があります。)が準備できるでしょうか。
③については、①と②が金額的に一致していれば、原資が同一であることを相当程度立証することができる可能性があります。
しかし、金額が一致していない、あるいは一致していても払い込み時期が経過しすぎている(上記裁判例に照らすと、2か月以上。ただし、この期間はケースバイケースです。)場合は、たとえ原資が同一であったとしても、裁判所は認めてくれない可能性が出てきます。
これら資料を吟味して、元妻の主張が通るか検討する必要があります。

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会
保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
専門領域 / 個人分野:家事事件 法人分野:労務問題
実績紹介 / 離婚の相談件数年間700件超え(2019年実績)を誇るデイライト法律事務所の代表弁護士。離婚問題に関して、弁護士や市民向けのセミナー講師としても活動。KBCアサデス、RKB今日感テレビ等多数のメディアにおいて離婚問題での取材実績がある。「真の離婚問題解決法」「弁護士プロフェッショナル」等の書籍を執筆。
