医療法人の出資は財産分与の対象?【弁護士が事例で解説】

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

当事務所の離婚事件チームには、病院等経営者の出資持分をめぐる財産分与について、多くのご相談が寄せられています。

この問題について、当事務所の弁護士が裁判例をもとに、詳しく解説しますので、ご参考にされてください。

 

病院経営者の財産分与についての裁判例

判例

【当事者】

被控訴人:妻
控訴人:夫(医療法人経営、年収:約3600万円)
子供:長男、二男

【事案の概要】

    1. ① 本件は、控訴人の配偶者である被控訴人が、控訴人に対し、控訴人の言動等や一方的な別居により婚姻関係が破綻したと主張して、民法770条1項5号に基づく離婚及び財産分与等の支払いを求める本訴を提起したのに対し、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人は家事を十分せず、控訴人が開設した診療所の経営に協力しなかったと主張して、民法770条1項5号に基づく離婚等の支払を求める反訴を提起した事案である。
    2. ② 原審は、離婚を認容し、財産分与として、1億4227万2942円等の支払を命じた。原審は、財産分与に関し、3000口の出資のうち2900口が夫、50口が妻、50口が夫の母の名義とされている医療法人につき、3000口の出資持分全てを財産分与の基礎財産として考慮し、当該医療法人の純資産価額全額をその評価額とした。そして、寄与割合については夫6割、妻4割と評価し、夫に対し、財産分与金の支払を命じた。
    3. ③ 財産分与の支払い等を不服とする控訴人が控訴し、控訴人は、夫の母名義の出資持分は財産分与の対象にならない、当該医療法人からの退社又は当該医療法人の解散により出資の払戻し又は残余財産の分配が現実化するまでに高額な医療機器に係るリース契約の締結などの不確定的なリスクが存在するから、現時点で出資持分の評価をすることは不可能、純資産価額の算定に当たって将来発生する退職金債務や税金を控除すべき、財産分与金の即時支払を命ずるのなら、想定される退社時あるいは解散時までの中間利息を控除すべき、財産分与金の支払期は退社時又は解散時とすべきなどと主張した。

本判決は、財産分与について、
「控訴人は、被控訴人に対し、1億1640万6281円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」と判断しました。

【大阪高判平26.3.13】

以下、財産分与の主要な争点に係る裁判所の判断を紹介します。

夫の母名義の出資持分が財産分与の対象となるか

本判決は、夫の母名義の出資持分も財産分与の基礎財産に算入すべきであると判示しました。

 

出資持分の算定方法について

本判決は、医療法人の純資産価額の70パーセントを出資持分の評価額として財産分与額を算定しました。

 

 

 

弁護士の解説

医療法人と出資持分について

医療法人とは、病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設することを目的として、医療法の規定に基づき設立される法人です。

医療法人の基本的な区分としては「社団たる医療法人」と「財団たる医療法人」があり、社団たる医療法人の中には、出資持分のある医療法人とそうでない医療法人があります。

出資持分のある医療法人とは、その定款に出資持分に関する定め(通常は、①社員の退社に伴う出資持分の払戻し、及び、②医療法人の解散に伴う残余財産の分配に関する定め)を設けているものをいいます。

平成19年施行の第五次医療法改正により、同年4月1日以降、出資持分のある医療法人の新規設立はできなくなったが、既存の出資持分のある医療法人については、当分の間存続する旨の経過措置がとられています(これらは「経過措置型医療法人」と呼ばれます。)。

このような経過措置型医療法人は、厚生労働省のデータによれば、平成31年3月31日現在、3万9263あり、医療法人総数の約72パーセントを占めています。

したがって、相手方が医療法人の経営者の場合、財産分与を請求する側の代理人弁護士としては、出資持分が財産分与の対象となる可能性があることに留意して、調査の必要性を検討すべきでしょう。

※厚生労働省「種類別医療法人の年次推移」WEBサイトはこちらからどうぞ。

 

出資持分の調査方法とは

調査方法としては、まず、相手方に対して、財産分与の基準時(通常は別居時)における出資持分の有無と内容についての開示を求めることが考えられます。

相手方の出資持分が100パーセントの場合、特に証明資料は不要と思われます。

しかし、相手方が一部しか保有していないと主張する場合、その真偽についての調査が問題となります。

すなわち、同族会社の場合は、決算報告書添付の「同族会社等の判定に関する明細書」を証明資料として活用する方法がありますが、医療法人では同明細書が作成されていないため、証明調査の入手が問題となります。

医療法人名で出資についての証明書を発行してもらう方法が考えられますが、相手方が当該法人を経営している場合、虚偽の書面を作文する可能性が排除できず、当該書面の信用性に疑義が生じることが想定されます。

平成19年の法改正以前は、出資持分のある医療法人を設立する際、「医療法人設立認可申請書」に「出資申込書」を添付して都道府県に提出することが求められていました。

この出資申込書には出資持分が明記されているので、その写しを証明資料として開示してもらう方法が考えられます。

この際、相手方から当該文書の写しを保管していないと回答されることも予想されます。

この場合、当該文書は、行政(都道府県又は保健所)に保存されている可能性があるので、各自治体の情報公開制度を利用して開示請求するよう相手方に促しみてもよいでしょう。

 

第三者の出資持分

夫婦以外の第三者の出資持分については、原則として財産分与の対象とはなりません。

しかし、本判決は、法人化する前から夫が診療所を経営しており、当該診療所と医療法人との間で、実質的な管理、運営の実態に変化がなかったこと等を考慮して、夫の母親名義の出資持分も財産分与の対象としました。

判旨からは明らかではないですが、おそらく、夫の母親の出資持分は単なる名義貸しであり、実際に母親からの出資はなかったものと思われます。

このような夫婦の実質的共有財産を法人名義の資産とした可能性があるケースでは、形式上第三者名義であっても財産分与の対象となる可能性を検討すべきでしょう。

 

出資持分の評価方法について

企業価値を定量的に算定する方法としては、1つの決定的な正解があるわけではなく、さまざまな手法があります。

本事案において、夫側は収益還元法によって評価すべきであると主張していたようですが、本判決は純資産価額の70パーセント相当額をもって評価額と判断しました。

出資持分の評価にあたっては、相続税額算定のための評価方法をもとに評価する方法も考えられます。

しかし、財産分与は、相続時という一定の時点における資産価値を評価する相続税の課税の局面とは異なります。

本判決は、財産分与の後に出資持分を保有し続けることが想定される事案において、様々な不確定要素を考慮した上で、純資産価額から一定割合を減じて評価した点で、柔軟な対応を行ったものと捉えられます。

弁護士決して医療法人の出資持分が問題となるすべての事案の指標となるものではありませんが、同種事案に対応する上で有益な視点を提供するものといえるでしょう。

出資持分を評価するためには、基本的には財務諸表(決算書)が必要となります。

そのため、評価の前提として、医療法人の財務諸表を確認することが必要となります。

しかし、相手方が医療法人を経営している場合、任意に開示に応じてくれないケースもあります。

このようなケースでも、筆者の経験上、協議段階であれば相手方弁護士を通じて、調停や訴訟の段階であれば裁判所等を通じて相手方に説得を試みることで、任意に開示に応じてくれることも多いです。

なお、医療法人の場合、履歴事項全部証明書を取り寄せることで、資産の総額を把握することが可能です。

これは、貸借対照表でいうところの純資産に相当するものです。

したがって、万一、相手方が財務諸表を頑なに開示しない場合は、履歴事項全部証明書をもとに、出資持分を評価するという手法も考えられます。

 

 

まとめ弁護士以上、相手が経営する医療法人の出資持分について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。

財産分与は、対象となる財産をもれなく調査し、かつ、それを適切に評価することが極めて重要です。

相手の財産とその価額(時価)がわからなければ、それを前提とした協議が進まないからです。

しかし、医療法人の出資持分については、法律上確定した財産分与の評価方法がなく、時価査定をする場合、ファイナンス等の法律以外の専門知識も必要となることが予想されます。

そのため、離婚専門の弁護士でも難易度が高い問題です。

当事務所には、離婚問題に注力する弁護士やファイナンスの知識を持った税理士等で構成される離婚事件チームがあり、このようなケースのノウハウを共有しています。

近くに専門家がいない遠方の方などは、LINEなどを利用したオンライン相談が可能です。

離婚問題でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

ご相談の流れはこちらからどうぞ。

 

 

 

 

 

財産分与


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