年金分割の案分割合を50%以外にできますか?
A) 実務上は困難です。
確かに、年金分割(合意分割)は、制度上、その範囲が最大で50%であることから、例えば30%といった分割も可能なように思えます。したがって、インター ネットでも、当事者の合意により自由に決めることができるかのように記載されたサイトがほとんどです(このようなサイトは弁護士以外の作成者が多いようで す。)。
しかし、離婚裁判実務において、50%以外の合意がなされることは非常に希です。なぜならば、案分割合で争 いとなって、仮に審判へ移行した場合、裁判所は、ほとんど例外なく50%とするからです。したがって、調停段階においても、調停委員からは50%に応じる ようにかなり説得されます。
なお、別居期間が長期間に及んでおり、かつ、その原因がもっぱら請求者にあるような特段の事情がある場合は、審判においても50%以下の案分割合が認められると思われますが、そのようなケースはほとんどないでしょう。
年金分割のよくあるご相談
当事務所には、年金分割について、たくさんのご相談が寄せられています。
ここでは、現場の離婚弁護士が実際によく受けている年金分割の相談例をご紹介いたします。
①制度が理解できません
インターネットなどで年金分割を調べると、説明が難しく理解できないという方が多くいらっしゃいます。
そのため、年金分割について、「離婚のときに相手方に年金を支払わなければならない」と勘違いされる方がいます。
しかし、そうではありません。年金分割とは、年金の支払い実績(記録)を分け与える制度です。
そのため、離婚時に相手方に現金を支払わなければならないということはありません。
年金分割の結果、将来、年金を受給できる年齢になったとき、もらえる年金が減りますが、あくまで先の話となります。
②相手方との協議がまとまりません
離婚の場面では、年金分割以外にも決めなければならいことがたくさんあります。例えば、財産分与、慰謝料、養育費、面会交流、親権などです。
また、離婚の場面では、通常、双方ともに相手方に悪感情を持っていることから、冷静な話し合いが難しいことが多くあります。
このような場合、当事者同士での解決は難しいと考えられます。
②どのような手続が必要ですか?
年金分割について、もめていなくても、分割するためには手続が必要です。
年金分割の手続は、通常、公証役場で作成した書面(私文書の認証など)や家裁の調書などが必要となります。
これらについて、素人の方が自分の力だけで行うのは難しい場合があります。
年金分割を50%以外にするポイント
上記の問題点を踏まえて、年金分割を50%以外にするポイントについて解説いたします。
裁判等を避ける
年金分割については、判決では、50パーセントになる可能性が高い傾向です。
そのため、年金分割を50パーセント未満にしたいのであれば、判決はできるだけ避けたほうが賢明でしょう。
なお、判決は、いきなり言い渡されるものではなく、通常は調停手続が先行しており、調停でまとまらない場合で、かつ、別途訴訟に移行した場合に言い渡されます。
しかし、調停段階においても、年金分割については50パーセントが当然であるかのように、調停委員から説明がある場合が多い傾向です。
そのため、年金分割を50パーセント未満にしたいのであれば、なるべく調停は避けたほうがよいかもしれません。
説得材料を用意する
年金分割について、相手方に「50パーセントは応じられない」と言っても、相手方は納得してくれないでしょう。
相手方に納得してもらうためには、「なぜ50パーセントは不当なのか」ということを説得的に伝えなければならないでしょう。
そのためには、次のような主張が考えられます。
【所得の差が大きいこと】
夫側が高額な年金保険料を負担しており、妻側が扶養に入っていたため年金保険料をまったく負担していないなど
【長期間の別居があったこと】
別居してから長年月が経過しており、形式上の夫婦であったこと
ただし、上記の主張は、裁判においては認められない可能性が高いと思われます。
あくまで、説得の材料程度の意識のほうが良いでしょう。
公証役場の手続
年金分割は、公証役場において手続が可能です。
まず、年金分割の合意書を作成して、公証役場において、私文書の認証という手続をとることが一般的です。
素人の方には複雑で、やや難しいと思われます。
詳しい情報を次のページに掲載しているので、ぜひ、参考にされてください。
関連動画はこちら

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士
所属 / 福岡県弁護士会
保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者・3級ファイナンシャルプランナー
専門領域 / 個人分野:離婚事件 法人分野:製造業・建設業分野
実績紹介 / 離婚の相談件数年間700件超え(2019年実績)を誇るデイライト法律事務所の離婚事件チームに所属。離婚問題では、相談者の状況に合わせて、今後のポイントとなることを丁寧に説明することをスタンスとしている。「外国人雇用の労務管理と社会保険」等の専門書を執筆。
